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蜃気楼の灯火(R18)

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俺はお前に期待しない。そんな人間がひとりくらいいた方がいいだろう?

 比企谷はそう言った。君を嫌いだと言った俺の言葉に俺もお前が嫌いだと返してくれたように。
 俺は誰も選ばない。君以外は。言外の意味に気づかない君ではないだろう。皆には優等生を続けても君がいてくれるなら耐えられる。君にだけは怒らせ嫌われたとしても本音でいたい。
 ポケットに手を突っ込んだまま振り返る君。地面に落ちる長い影。赤い夕焼けの中で金の光に縁取られた輪郭。幻のように蜃気楼のように。


 目を覚まして温もりに気づく。身体を起こした葉山は隣で眠る比企谷を見下ろす。薄いカーテン越しに陽が部屋を薄明るくしている。
 比企谷はセックスした後は体力が尽きていつも泊まってゆく。俺が際限なく貪ってしまうからなのだけれど。いや、わかっていて疲れさせているんだよな。君がこんなに側にいる。無防備に俺に寄り添っている。
「比企谷、俺は幸せだよ」
 髪に触れていると比企谷が目を覚ます。
「いつから起きてた」
「起きたのはついさっきだよ」
 葉山は言う。
「帰んなきゃ」
「俺の服着れば?一緒に出ようよ。どうせ同じ大学に向かうんだから。」
「ぜってーやだ」
「いつも思うんだけど。着替え少しここに置いてけばいいじゃないか。どうせ来るときは泊まってくんだから」
 比企谷は少し間を置いて返事をする。
「小町が心配する」
 昨日の服に着替えると比企谷は「じゃあな」と玄関を出てゆく。
 比企谷を見送りながら 葉山は髪をかきあげる。ようやくここまで来たんだ。焦るな。そう自分に言い聞かせる。

 君が俺に壁を作って俺を切りそうになるたびその壁を崩してきた。怒らせて苛ついてそれでも懸命に絆を繋ぎ止めようとした。君だけはなくしたくないという衝動に囚われていた。避けられても押しかけるし嫌われようと踏み込む。一方通行でも感情の押し付けでも構わない。人に好かれたい、嫌われたくないのが俺であったのに。好かれたいわけではないと、ここで引くくらいなら嫌われても構わないと、自分の衝動が優先した。君のことでは俺らしくなくなくなる。君だけが、君だけをと。それがどうしてなのかはわかっていた。
 高校を卒業して比企谷は俺と同じ大学に入った。というより入らせた。何処でもいいと言い、上の大学に行く意欲が微塵もなかった比企谷。一緒に受験勉強をすると言うと比企谷の家族に大いに歓迎された。渋面を作る比企谷を何処でもいいなら俺と同じでもいいだろうと説き伏せた。その名目で比企谷を繋ぎ止めるためだ。
 勉強には図書館のほか比企谷の家にも通い俺の家にも誘った。部屋で勉強するときは物理的に段々距離を縮めていった。向かい合わせから隣に。肌が触れる体温を感じる距離を不自然に思わせないように。
リア充はなんでやたら距離が近いんだよ」と文句を言っていた比企谷も段々慣れて何も言わなくなった。
 
 大学の試験に二人とも合格した翌日、葉山は比企谷を家に来ないかと誘った。部屋で2人ベッドを背もたれにして並んで座る。
「もうお前とお勉強しなくていいと思うとせいせいするな」
「ああ、俺も安心だ。これで君と大学も一緒だしね。4年間よろしく」
 比企谷は苦笑いをする。
「まあ、例えお前でも知ってる奴がいるってのは、まあ」比企谷は口籠り、言葉を続ける。「小町も親も嬉しそうだったし、その、お前に借りができたな」
「借りか」葉山は手に持っていたコップをテーブルに置く。「じゃあ借りを返してくれるかい」
 葉山は比企谷の正面に移動して身体を跨ぐと比企谷の顔の両サイドに手をつく。
「葉山?」
 比企谷は訝しげな表情を浮かべる。
「俺は君が好きみたいなんだ」葉山はそう告白しキスをする。「なんとしても一緒の大学に行かせたいと思ったくらいに」
 目を丸くして硬直している比企谷に何度か軽くキスをして聞く。
「嫌かな?」
「え、ちょっとよくわからないんだが」
 また唇を重ねて息継ぎのため開いた唇の隙間から舌を差し入れる。段々キスを深くしてゆく。首元に顔を埋め首筋にキスをする。言葉を紡ごうとするのをまたキスで口を塞ぐ。比企谷の身体をベッドサイドの床に倒しシャツのボタンを外してゆく。タンクトップをたくし上げて肌に唇を這わせる。比企谷の足がテーブルを蹴りコップが倒れて雫が床に滴る。
「葉山、コップが倒れた。溢れてる」
比企谷が上擦った声で言う。
「後でふけばいいよ。気をそらすなよ」
 少し苛立ちキスをしながら比企谷のズボンを寛げる。ペニスを探り当て指で輪を作り扱きはじめる。空いた片腕を比企谷の顔の側面につく。
「はや、何を」
 抗議しようとする口を唇で塞く。緩急を付けてペニスを扱く。そのうちに合わせた唇の隙間から漏れる比企谷の息遣いが荒くなる。
「気持ちいい?比企谷」
「人が触ってるってすごく変だ」
 掠れた声が答える。葉山は扱く手を止めると自分のズボンを寛げる。途中で止められ無意識に宙を彷徨う比企谷の手を取る。
「比企谷も俺の触ってくれ」
 戸惑うかと思ったが比企谷は素直に葉山のペニスに触れる。たどたどしく指が絡みつきそっと圧迫される。初めて比企谷に触れられたことに葉山の気分が高揚する。葉山は比企谷のペニスを再び扱き始める。それに習いぎこちなく比企谷の指も動く。
 雰囲気に呑まれたのか素直に従う比企谷を葉山は翻弄する。衣擦れと息遣いと唇を触れ合わせる音だけが部屋に響く。登りつめ達しそうになり葉山は比企谷の指ごと2人の屹立を纏めて握る。
「葉山、あ」
 上擦った声で名を呼び比企谷は目を瞑る。
「比企谷、もう」
 先端を比企谷の腹部に押し付けると同時に達し2人分の白濁が肌に零される。
 ことが終わったけれど比企谷はまだぼうっとしている。精液を拭き取り比企谷の頭の傍に両手をついて見下ろす。
 やっと比企谷を手に入れた。互いの性器を触り合う行為を受け入れさせた。人の好意に慣れてなくて恩義に対して律儀な比企谷。身体の接触にも慣れさせたし雰囲気で流してしまえば受け入れてくれる勝算はあった。けれども本当に抱けるなんて。葉山は嬉しくなり比企谷に微笑みかける。覆い被さると未だ惚けたままの比企谷の身体を抱きしめる。
 そうしてその日から関係性は変わった。一度そうなってしまうと熱を分け合うのが当たり前になってしまう。比企谷は押されると拒めないから意図的にそういう方向に持っていったのもある。
 それでも初めて最後までした時は比企谷は戸惑いを見せた。仰向けにして足を開かせ中をならすまでは流されていた。だが比企谷は葉山が挿入しようとするとペニスに添えた手を押しとどめて「まずいだろそれは」と言う。何故と聞いたが答えない。
「嫌なのか」
 と聞く。無理強いはしたくない。したくないけど。
「その、葉山」
 と比企谷は口籠る。
「今更止めることはできないよ」
 焦れて苛立ちが声に出てしまう。
「それじゃセックスみたいだ」
 比企谷は呟くような小さな声で言う。それを聞いて耳を疑い茫然とする。何言ってんだよ、嘘だろ。
「今までのも十分セックスなんだけど」
 と憤慨して言うと
「え、そうなんだ?」
 と比企谷は驚いたように言う。じゃあ君は何のつもりだったんだ。比企谷の手を振り払いペニスを押し当てぐっと身体を進める。性急な挿入にはっと比企谷が息を呑む。コンドームの滑りでするっと太い先端が身体に埋め込まれる。キュッと締められて気持ちよさに声が出てしまう。狭い中を広げながら身体を進めてゆく。動く度に比企谷が「ん、あ」と小さく声をあげて喘ぐ。腰を押し付け竿をゆっくりと深く突き入れる。
「比企谷、痛いか?」
「なんか変だ。内蔵が押し上げられるみたいだ」
「気持ちいいところがあるだろ。指を入れたときに見つけたよ。探すよ」
「いい、やめてくれ、それよりさっさと済ませろよ」
「なんだよその言い草は。そう言われると探すしかないな」
 腰を引き浅めのところをペニスをかき混ぜるように動かす。悪態をついていた比企谷が声を震わせたことで前立腺を探り当てたと知る。
「見つけた」
 にやりと笑うと比企谷は自分でも驚いたのか目を丸くしている。ぐりぐりとそこを重点的に責めると段々啜り泣くような声を上げ始め目を潤ませる。
「はや、ま、いやだって」
 余裕をなくし首を振り快感に喘ぐ比企谷に堪らなくなり奥を突き上げては引き抜く。繰り返し擦りあげる。初めてのセックスのように夢中になって求める。達してはコンドームを付け直してまた抱き合う。腕を絡ませ脚を絡ませ深いキスを繰り返す。
 終電の時間を過ぎる頃にやっと比企谷を解放する。散々身体を暴かれて比企谷はぐったりとして動かない。
「帰れない、どうしてくれるんだ」
 と彼は言う。
「泊まってけばいい」と言うと少し間があって、
「そうするか」と比企谷は答える。
 俺は君を手に入れたとそう思っていた。

 新学期になり大学生活が始まった。通うには時間がかかるからと葉山は一人暮らしを始めた。比企谷は遠くても自宅から通うという。教科によっては比企谷と別々になるがクラスが同じのものではなるべく側にいるようにした。
「あっち行けよ。お前といると目立つ」と言う比企谷に「交友関係でもう無理をしたくないんだ」と葉山は答える。
「一緒にいたいからいるんだ」
 付き合いたい人と付き合う。したいようにしていいんだと。君が俺のものになってからそう思うようになった。
 比企谷は帰宅部にはならず文芸部に入った。高校の時の奉仕部のことから彼なりに思うところがあったのかも知れない。もっとも思ったところとはかなり違う賑やかな部活だったようだが
「材木座や海老名さんみたいなのばっかりだ。五月蝿くてしょうがねえ、面倒くせえ」
 と文句を言いながらも楽しんでいるようだ。
 葉山は高校の時と同じくサッカーに入部した。葉山の方が帰宅時間が遅いことが多く、初めの頃は比企谷はさっさと帰ってしまっていた。だが一方的でも約束をすると比企谷は律儀に守ってくれることがわかった。
 部活が終わると図書室にいる彼を見つけに行く。
「やあ、待たせたね」と言うと「待ってねえよ。たまたまだ」と返される。
 一緒に帰ると大抵比企谷は俺の家に来て泊まっていく。でも何度着替えを置いていけばと言ってもここはお前の家だと言い自分の物を決して残していかない。少し引っかかったがそれは彼のポリシーなのだとそう思っていた。

「小町ちゃんは家を出るのか」
「ああ、大学遠いから近くに部屋を借りるんだそうだ」
 土曜日の大学からの帰り道、葉山はそのまま比企谷を家に連れてきた。
「だから今日は帰るからな。あいつ明日は親と家具とか揃えに行くんだ」
 比企谷はベッドを背凭れにして買ってきた本をめくっている。
「君は行かないのかい」
「俺は留守番。折角の日曜日なんだし1人でのんびりしたいしな」
「そうか、なら明日君の家に行っていいかい?」
「1人でのんびりするって言わなかったか」
「1日家にいるんだろ。時間は何時でもいいよな」
「葉山、人の話聞いてるのかよ」
 葉山は少し考えて比企谷ににじり寄る。
「もう比企谷は小町ちゃんに面倒見てもらえないんだな。」
「小町もそう言ってたけどよ。別に心配ねえし」
「比企谷、一緒に暮らさないか」
「嫌だ」
 そう言うと比企谷に即座に断られる。釈然としない。大学に通うより借りた方が効率がいいはずだ。家賃だって折半にすれば電車代より安くなるくらいだ。今までは小町ちゃんのためかも思っていた。その心配もなく比企谷の家の方針でもないなら何故なんだ。もう2年も経つんだ。そろそろ先へ進んでもいいんじゃないのか。
「家を出てもいいんだろう。何の問題があるんだ」
「俺家が好きだし」
「通うの遠いって文句言ってたじゃないか。近くに借りた方が楽だろ」
「それはそう思ったこともあるけどな」
 目を逸らし言い訳じみた比企谷の物言いに苛立ち問い詰める。
「こっち向けよ。他に理由があるのか」
 両肩を掴み見据える。比企谷はやっと口を開く。
「2人で暮らす生活なんてものに慣れたくないんだ」
 そう言い目を上げる。
「俺は慣れるとその生活にしがみついてしまう。変えたくないと思ってしまう。行き来する付き合いならいつでも」
「終わりにできるってことか」
 比企谷の言葉に声が震える。
「そうは言わねえけど。気持ちなんて変わるだろ。あんまり耐性ねえからな俺は。用心に越したことはねえ」
 比企谷は言いながら視線を逸らす。
「俺が信用できないのか」
 比企谷の肩に置いた手に力が篭る。
「お前の気持ちだって変わるし、俺の気持ちだって変わるぞ」
「変わらないよ。変えない。変えさせない。俺が信じられないのか」
 どれだけ君を手に入れるために苦労したと思ってるんだ。今更手放すものか。誰にも奪われるものか。
「お前を信じてないわけじゃない。期待してないだけだ」
 葉山は凍りつく。あの時君は期待していないと言った。それはそんな意味だったのか。「お前みたいなリア充の何処を期待しろっていうんだ」
 比企谷は不敵に笑う。彼はわざと怒らせようとしている。怒らせて終わりにしようとしている。それがわかってるのに、手の内だと見え透いているのにどうしても腹がたつ。
「君が嫌いだ」
 そう口にすると比企谷の瞳が揺らぐ。
「そうだろ」
 彼は口元を歪ませて笑う。
「だから君の思いどおりにはしない」
「え、どういう意味だ」
 葉山は戸惑う比企谷の肩を掴んだまま押し倒す。
「俺が飽きるまで君は俺のものだ。君に選択権はないよ」
 組み伏せた比企谷の身体が竦むのがわかる。俺は君が好きだ。君も俺が好きなんだろう。それなのに諦めるなんてできない。
「あ、いあ、葉山」
 比企谷が掠れた声で名を呼ぶ。葉山は組み敷いた比企谷の腕を押さえつけ無言で犯し続ける。下半身だけを剥き出しにして足を広げさせ押し広げて身体を繋いでいる。抽送するたびにくちゅっと潤滑液による水音がする。
 コンドームを付けずにはじめて生で味わう比企谷の体内は融けそうに熱い。なのに心は凍てついて泣きそうになる。こんなに温かく包まれるような君の身体なのに。比企谷のペニスが少し勃ちあがるがわざと手を触れない。
「後ろだけでも感じるんだね。俺が君の身体をそう変えたんだな」
 比企谷は眉を寄せるが何も言わず目を閉じる。混じりあう体液と体温。引き抜くと屹立を包む皮膚が内壁に引っ張られ擦られる。擦るたびに雁が君を少しずつ抉り取っていくようだ。いつもより強い刺激に腰を緩慢に振り達しそうになると止めて散らす。比企谷は黙ったまま貫かれて揺さぶられる。達しそうになりペニスを引き抜いて比企谷の腹の上に射精する。
「平塚先生は言ったんだ。俺は傷つくのは慣れてるが、周りの人間は俺が傷つくことに耐えられないってな。俺はそれから気を付けてきたつもりだった。お前が教えてくれたことでもあるんだぜ」
 息を整えながら比企谷は言う。
「比企谷」
「俺は傷つけようとして傷つける。どう言えば人が傷つくか俺にはよくわかってるからな」
 比企谷は衣服を身につけてゆく。それが鎧を纏っていくように思える。
「でも俺の考えの外で怒る奴がいて、お前はいつもそうだ」
 比企谷は俯く。
「お前を傷つけてるつもりはないんだ。全然。なんでお前はそんな顔をするんだ」
「どうして君はそれがわからないんだ」
 葉山は言う。
「今は居心地がいいんだろうな。お互い。でもこれがずっととかねえだろ」
「なんでそう思うんだ」
「俺にもお前にもこれは本物じゃない」
 カッと頭に血がのぼる。葉山は玄関に向かう比企谷に駆け寄ると胸倉を掴みドアに押し付ける。比企谷は驚いて目を見開く。
「君の言う本物ってなんだ」
 襟元を締められて比企谷は葉山の腕を叩く。
「離せよ、葉山」
「今を偽物だって言うのか。なら本物なんて俺はいらない」
 そう怒鳴ってから葉山は苦しそうな比企谷に気づき手を離す。比企谷は咳き込むと直ぐにドアを開ける。
「とにかく一緒に住むとかねえから」
 言い捨てて走り去る比企谷の背中を見えなくなるまで見送る。ドアを閉めると葉山はズルズルと玄関に座り込む。
 俺の家に何も置いていかないのはそういうことか。君は俺に何も残さないつもりでいるのか。いつか俺とのことを終わりにして忘れるつもりでいるのか。
 あの頃君が嫌がっても俺はどうしても余計なお世話をせずにはいられなかった。君が人を傷つけると呼んでいる犠牲的な行動に怒らずにはいられなかった。返す刀でいつも君の方が傷ついているのに苛立った。その意味を考えもせずにした行動が、抑えられない衝動が、意味するところは明らかだった。
 俺は君が気になってしょうがなくて、君にも俺を気にして欲しかった。友達といるのは純粋に楽しいけれど君にはいつも心が掻き乱される。苦しいのに関わりたくて、関わっては傷ついて。わざわざ焼かれるために火に飛び込む羽虫のように俺は君に近づいた。
 それでもいつしか君が俺をまっすぐに見てくれるようになった。嬉しかった。認めあうけど君にはなれない。それでも心が通じ合える。互いにそんな確認をしてそれで満足するはずだった。けれども、俺はそれだけでは済まなかった。
 赤い夕焼けを共に眺めたあの日。分かり合えたと思うと同時に俺は君が欲しくなった。どうしても手に入れたくなった。俺をどう思っているかわからない相手にはどうすればいいのかわからない。だが好感を抱いてくれる相手を掌握するのは俺には容易いことだ。好意に対して君が好意を返してくれるなら俺が優位に立てる。奸計を弄すれば対人関係に疎い君を手玉に取れるのではないか。君の心も身体も絡め取る。君を永遠に繋ぎとめる。それができるかもしれない。俺にはできる。
 気になってるだけだった時には可能だなんて思いもしなかった欲だった。止めようもない誘惑だった。

 翌日は朝から雨の降りだしそうな黒い重たい雲が空に広がっていた。葉山は比企谷の家の呼び鈴を押す。インターホンから比企谷の声が返事をする。
「やあ、昨日はごめん」
 と言うと比企谷は少し間を置いて
「ああ、俺も」
 と答える。
「わざわざ来たんだ。まあ上がってくか」
 と比企谷がドアを開けて顔を出す。
「小町ちゃんはまだ帰ってないのかい?」
 リビングのソファーに座り葉山は聞く。
「今日は親と家具を選びに行くって言ったろ」
「そう言ってたね」リビングを見回して葉山は言う。「比企谷の家に来るのは久しぶりだな。卒業してから会うのははいつも俺の家だった」
「そうだな」
「比企谷の家には家族がいるから俺のところでいいと思っていたしね」
 そのことに不満はなかった。何の疑問も持っていなかった。今までは。
 飲み物を入れると言い比企谷はキッチンに向かう。葉山は立ち上がり比企谷の後を追う。
「座ってろよ何がいい?はや」
 振り返る比企谷を葉山は引き倒しキッチンの床に組み敷く。
「いて、なんだよ」
 比企谷のスウェットを脱がし下半身を剥き出しにする。
「どうしたんだ」
 驚いて問う比企谷を昏い瞳で見つめ葉山は黙ったままズボンを脱ぐと比企谷の足を曲げて開かせ勃起したペニスを押し当てる。何も言わずに腰を揺すりペニスを比企谷の中に沈め始める。
「痛いって、葉山」
 比企谷は苦しげに喘ぐが葉山は動きを止めずに貫いてゆく。突くたびに繋げられた比企谷の身体が揺れる。奥深くまで埋め込むと比企谷の上に身体を屈め律動する。強く揺さぶられるたびに比企谷は苦悶の声を上げる。
雨が降りだしてくる。雨粒が屋根を鳴らす音は段々増えてゆく。葉山は抜き挿ししながらシャツを脱ぎ捨て、比企谷のTシャツも脱がす。素肌を密着させ鍛えられた胸筋を組み敷いた身体に押し付ける。首筋に唇を押し当てて吸い付く。シャツで隠しきれない見えるところにも跡をつける。比企谷が声を押さえる。声に甘いものが混じってきている。無理矢理な挿入であっても慣らされた身体は葉山の行為に感じてきている。感じ初めてから声を押さえる彼に苛つく。前立腺にペニスの先を押し付けて擦ると比企谷は喘ぎ声を出しかけ、また声を殺す。
 先端だけを体内に残し一気に互いの付け根の皮膚が触れるまで突き上げる。空が光り稲妻が空を引き裂く音が聞こえる。身体の下で比企谷は堪らず悲鳴を揚げる。引き抜いては激しく突き上げて責める。肩に比企谷の足を担いで上半身を倒して折り曲げる。腰を押し付けるとより一層深くペニスが内に沈み比企谷が息を呑む。
 雨が激しく屋根を叩く。荒い息遣いと腰を打ち付ける音が雨音にかき消される。引き抜いては突き入れ際限なく求める。熱い粘膜が葉山を締め付ける。抜くとひき止めるように絡みつき挿入すると亀頭を引き入れるように収縮する。葉山は身を捩る比企谷を見下ろす。
 君の身体は俺をこんなに求めているのに。気持ちいいのにどうしようもなく辛くなる。射精の予感に肩から足を下ろし上半身を起こす。動きを止めて不安げに見つめる顔を見下ろす。引き抜くところだが逆に深く入れて言う。
「君の中でいくよ」
「葉山?一体」
 息を喘がせながら比企谷が問う。足を開かせ腕を押さえつけて吐精のために激しく腰を揺する。強く揺さぶられ比企谷が問いかけた声を詰まらせる。ペニスの中をじわりと熱が走り射精して彼の中を濡らす。
「あ、あ」
 と比企谷もそれを感じたのか小さく声を上げる。幾度か揺すり精液を出し切りゆっくりと引き抜く。
「これでこのキッチンに立つたびに俺を思い出さずにはいられないよな」荒く息を吐きながら薄く微笑んで葉山は言う。「ここで俺とセックスしたんだってね」
「葉山、お前」
 比企谷は驚いたようだがすぐに口元を震わせて怒りの表情を見せる。身体を起こし葉山を殴りつけさらに脱ぎ散らかされた服を投げつける。
「出て行け」
 葉山を睨みつけ震える声で比企谷は怒鳴る。
「比企谷」
「出てけよ」
 比企谷は葉山に背を向けて風呂場に駆け込む。シャワーの水音がする。葉山は投げつけられた衣服を身につける。
「帰るよ」
 風呂場にいる比企谷に声をかけるが返事はない。外は激しい雨が降っている。門の前で葉山は振り向く。しばらく見つめて目を伏せると雨の中に歩を踏み出す。濡れて家までの道のりを足取り重く歩く。
 取り返しのつかないことをした。でも堪らなかった。君は俺をいつか跡形もなく消そうとしている。いつか過去の思い出にしようとしている。だから何も残さないようにしているんだろう。俺との時間は今だけでいいと思ってるのか。俺と未来を見ようとしてくれないのか。君が人と深く付き合うことで傷つくのが嫌なのはわかってる。けれど、君の臆病さが俺を壊していくことに気付いてくれないのか。
 葉山は灰色の空を仰ぐ。降りしきる雨の雫が顔を流れ顎を滴る。濡れた服が身体に張り付く。寂しいんだよ比企谷。堪らなく寂しいんだ。欲を出したのがいけないのか。でもどんどん欲深になるのをどう止めればいいんだ。
こんなことで君を失うんだろうか。君を失いたくない。

 帰宅してから倒れて葉山は熱を出した。
 朝になっても熱は引かず大学を休むことにする。熱のせいで頭がぼうっとするがベッドに入っても寝付けない。比企谷に会いたい。でもどの面下げて会えると言うのか。1人ベッドに悶々としながら転がっていると呼び鈴が鳴る。重い身体を引きずりながら覗き穴を見ると比企谷が立っている。驚いてドアを開ける。
「比企谷、どうして」
「具合、悪そうだな。入っていいか」
 比企谷は目を泳がせながら言う。
「ああ」
 比企谷を部屋に上げると葉山はベッドに戻る。比企谷はベッドの側に座り込む。
「小町が俺のせいだっていうからよ。雨なんだから傘くらいは貸すべきだってよ」
「何があったのか言ったのか」
「いや、まあ。あいつすぐお前の味方するんだ。お前の外面に騙されてっから」視線を逸らし憎まれ口を聞きながら「その、大丈夫か」と比企谷は言う。
 心配して来てくれた。それがわかり胸が熱くなる。多分本当は小町ちゃんは何も知らないんだろう。君は俺が大学を休んでるのに気付いて来てくれたんだろう。君はわかってるのか。俺は君のことでどんな些細なことでも嬉しくなるんだ。このままずっと手放したくなくなるんだ。
「そうだよ。君のせいだ。だからここにいてくれ。そのくらいいいだろ」
「お前図々し」そう言いかけて「俺にできることないか?」と比企谷は不安げに言う。
 君にしてほしいことはいっぱいある。優しくしてほしい。側にいて欲しい。君に触れるのを許して欲しい。今なら我儘が許されるだろうか。
「熱はあるのか?」
 比企谷の手の平が葉山の額に当てられる。ひんやりと気持ちいい。
「君の額をくっつけて測ってくれないか」
「原始的だな」
 比企谷は呆れた表情でにじりより上に屈み込むと葉山と額を触れ合わせる。額もひんやりと気持ちいい。比企谷の睫毛が触れる。吐息が当たる。このまま触れていて欲しい。
 比企谷の後頭部を掴むと葉山は引き寄せ唇を合わせる。驚き開いた比企谷の口から舌を挿入する。濡れた熱い口腔を貪るように蹂躙する。歯列を舌でたどり舌を探り当て擦り合わせる。口腔内を味わって名残惜しく唇を離す。
「風邪は移せば治るっていうだろ」
葉山は微笑むと真っ赤になった比企谷に言う。布団から手を伸ばし比企谷の手を取って握る。
「俺には兄弟がいないからわからないけど。君が兄弟だったらどうだっただろうね。小町ちゃんするみたいに構ってくれたかな。こんな風に熱を出したら看病してくれたかな」
「熱に頭やられたのかよ」
「毎日帰るといつも君がいて俺は安らいだかも知れないね」
「毎日家にお前が帰ってくるとかぞっとしねえな」
「でももっと辛かったかもな。どんどん膨れ上がる欲情する気持ちに潰されたかも知れないな。」
「なんでいきなり近親相姦?兄弟設定で話してるんじゃなかったのかよ。お前、兄弟ってもんを誤解してるぞ」
「俺は君と家族になりたいよ」
 比企谷は答えず黙り込む。葉山は繋げた手をぎゅっと握る。
「兄弟よりも親子よりも。ずっと側にいたい」
 腕を引くと比企谷は困ったような顔をする。そのまま強く引っ張り彼の身体に布団を被せる。引きずりこんだ布団の中で比企谷のシャツのボタンを外しはじめる。
「葉山」
 比企谷が押しとどめようとそっと葉山の手を抑える。
「人肌で温めてくれるかな。そうしてくれたら治りそうだ」
 そう言うと比企谷の緩い抵抗が止む。病人を嵩にきて卑怯だな俺は。衣服を全て脱がすとベッド下に投げる。比企谷は上目づかいに葉山を見てごそりと背を向ける。葉山も寝巻き用のTシャツとハーフパンツを脱いでベッドの下に落とす。温もりを後ろから抱きしめる。裸の素肌が触れ合う。胸筋と腹筋をぴったり彼の背中に押し付けて拘束する。
 君の言葉は冷たくて心を引き裂くけれど身体は温かいんだ。君は本当は優しいから俺なんかに付け込まれるんだよ。俺は君を大切にしたいのに。それなのにどうして君から何もかも奪い尽くしたいんだろう。
 足の間を膝で割り下半身を密着させる。陰茎を彼の臀部に押し付ける。比企谷がびくりと震える。領にキスをし唇を這わせる。彼の尻を撫でて双丘の隙間に陰茎の先を挟む。腰を押し付けると陰嚢を啄く。腰を揺らしているうちに硬くなってくる。少し腰を引き後孔に押し当てると亀頭を擦り付ける。
「いいかい」
「嫌だと言ったらやめてくれるのか」
「そうだね」
「じゃあ嫌だ」
「そうかい」
 回した腕に力を込めもう片方の腕で彼の腰を掴み押し付ける。亀頭が柔い肉に締められ彼の中に挿入したのを感じる。彼が声を堪えて嗚咽のような吐息を漏らす。何度か揺さぶると抱きしめた身体が強張る。張った雁を入れ込んだところで腰の動きを止める。
「やめてあげたよ」
「やめ、何言って」
 彼は身体を捻り振り向くが繋がった場所が捻られ呻く。肩口に顎を乗せキスをすると囁く。
「君が欲しいというまでこのままだよ」
 亀頭で小刻みに入り口を抉る。雁まで挿れては引き、窄まりを広げるように嬲る。彼の喘ぎ声に啜り泣くような声が混じる。堪らない。深く貫いてしまいたい。けれど彼の言葉を待つ。
「俺が欲しい?比企谷」
 揺さぶりながら問いかける。言ってくれ。
「お前、最低だ」
「欲しいと言えばいい」
「言ったらどうなる」
「抜いてあげるよ」
 彼は逡巡したようだったが小さな声で言う。
「欲しい」
 やっと言ってくれた。密着させたまま身体を起こして比企谷を尻を突き出す姿勢にさせると腰を掴み根元まで深々と貫く。
「や、てめ、嘘つき」
 彼は衝撃に背骨をしならせる。
「ここで止められないことくらいわかるだろ、同じ男なんだし」
「でも、もう少しゆっくり」
「焦らされたからね。もう待てそうにない」
 背骨を指でなぞり舌でなぞる。獣の交尾のように背に覆い被さり領を舐め歯を立てる。激しく突き上げ律動し熱い肉襞を押し広げ抽送する。
「ちゃんと抜くよ。嘘は言ってない」
 彼は溜息をつく。
「お前がイったらだろ。ふざけんな、まったく」
 君の身体をこじ開ける。そうして君の頑なな心をこじ開けられればいい。

 あの日君と夕陽を一緒に浴びて紅い空を共に眺めた。金に縁取られた君の横顔を眩しく見つめた。山の端に陽が落ちて金糸が消えてもその横顔は網膜にフィルムのように焼き付いた。
 俺も嫌いだと言ってくれたその言葉は君の優しさだったんだろう。期待しないと言ったのも言葉通りの意味だったんだろう。でも俺は俺が君を選んだように、君も俺を選んでくれたと思ったのだ。俺は期待して手を伸ばしたのだ。
 分かり合えたと思えたのが俺の思い込みであったとしても、一度心に焼き付いた光は消えない。例え目に映したのが遠い蜃気楼の灯火であったとしても。それは遠くとも確かにある灯火なんだ。欲しくてたまらなくて掴み取った。それが幻の灯火であったとしてもかまわない。
 俺は決して手放さない。

END

唆しの月(R18)

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「二人揃うなんて面白いね」
 陽乃はにっこり笑って言う。
「偶然ですよ」
 負けずに葉山も微笑んで言う。
「全くだ。なんでたまに外に出たらよりによってこいつに会うんだか」
 比企谷は不機嫌を隠さずぶつくさと呟く。
「偶然会っちゃうなんて縁があるんじゃないの?」
 なんでこうなるかなと比企谷は苦々しく思う。
 春休みに比企谷は珍しく町に出かけた。一日中家でごろごろしているのでたまには外に出たらと小町に家を追い出されたわけだ。だが、たまたまコーヒーショップの前で葉山に出くわした。にこやかに笑いかける葉山を見て比企谷は眉根を寄せて踵を返す。葉山は背を向けかける自分の後姿に呼び掛けようとして躊躇していたようだった。そこを陽乃に見つけられた。いや、見つけられたから躊躇したのだろう。葉山を見て意味深な笑みを浮かべると陽乃は比企谷を呼び止めた。そうして二人ともコーヒーショップに引きずられ、陽乃と相席させられたのだ。
 正面に並ぶ葉山と比企谷の前で陽乃が艶やかに微笑んでいる。優雅に珈琲を口元に運び、比企谷を見つめて陽乃は言う。
「比企谷くんはさっき隼人がどんな顔して君を見てたか知らないでしょう」
「陽乃さん」
 葉山が話を遮ろうとする。
「そりゃ後ろは見えないし。見えなきゃ別にいいです」
 比企谷は言う。
「ふうん。気にならないんだ。全然」
 比企谷の答えに陽乃は葉山を見ながら相槌をうつ。葉山は比企谷を見つめてから視線を膝に落とす。
「君は好きだって言われたことないんでしょう」
「ないですよ。ぼっちですから」
「君は好きだって言われたらその相手を好きになっちゃうかもね。全然好きじゃなくても。意識されることで意識しちゃうんじゃない。それが女の子でも」
 陽乃はちらっと葉山に目を向ける。
「男の子でもね」
「幾ら何でもそんなことないですよ」
「君は甘く見てるよ。好意ってのは暴力なんだから。自分の方を向かせようとする強い思いが何も影響しないはずがないよ。ましてや免疫のない君なんか」
「俺に好意なんか、そんな期待しないですから」
「謙遜かな?それとも自惚れかな?君を変えようとする力に絶対抗えると言うんだね。見てみたいな君が屈するところ」
 葉山に視線を向けて陽乃は悪戯っぽく笑う。
「そう思うよね。隼人」
 そう言って陽乃が軽やかな足取りで去る。比企谷も席を立とうとするが葉山が腕を掴んで引き止める。
「何だよ。もう」
「君は好きと言われたら好きになるのか」
「なわけねえじゃん。あの人は俺たちをからかってんだよ」
「例えば俺が」
 掴む腕に力が込められる。
「俺が君を好きだと言ったら、何度もそう言ったら、君は俺を好きになるのか」
 射抜くような葉山の眼差しに気押される。
「あるわけねえだろ。ましてやお前にとかありえねえわ」
 軽い調子で返すと葉山に真剣な表情で見つめられる。
「何故俺だとあり得ないんだ?」
「兎に角、あの人の言うことは全部嘘だ」
 腕を振り払うと逃げるように比企谷は立ち去る。コーヒーショップを出ると早足になり段々駆け足になる。歩道橋の側まで来ると立ち止まり、振り返って葉山が追ってきてないのを確認してほっと息をつく。
 俺と葉山の距離はこのくらいでいい。あいつの外面と中身がズレてるのはわかってる。リア充だと決めつけて色眼鏡で見ていたあの頃より、近づいたことでそれまで見えなかった部分も見えた。思っていたより嫌な奴で厄介で面倒な奴だ。けれども別の意味で思ってたよりずっといい奴なのもわかってきた。俺が知らなかっただけなんだ。けれども近づき過ぎると傷つけられるような気がする。あいつは無自覚かも知れないが、俺には確信がある。あいつは俺を傷つけようとしている。

 新学期早々に一色に生徒会の仕事の手伝いを頼まれ、比企谷は大量の生徒会の資料を資料室に運ぶ。校庭の桜は満開を過ぎて花弁が風に乗って窓から入り込み廊下に散らばる。一気に運ぼうとしたせいで足元が見えない。転びそうになったところを後ろから誰かの腕に支えられる。礼を口にして振り向くと背後に葉山がいる。舌打ちすると葉山は苦笑して勝手に比企谷の手から資料を半分奪う。
「いろはは生徒会が忙しいみたいだね。なんとかマネージャーと両立させてるけど。無理しなくていいと言ってるんだけどね」
「気になるならお前が手伝ってやればいいだろ」
「頼まれもしないのにそんなこと言えば好意を持ってると誤解させるかもしれない。君も知ってるだろう。また悲しませたくないしね」
「今頼んでねえのに手伝ってるじゃねえか。俺も誤解するかも知れないぞ」
「君なら誤解じゃないよ」
 葉山は比企谷を見つめて言う。空気が張り詰める。いたたまれない気分になる。比企谷は相手の腕から資料を奪おうとするが果たせない。
「それ、返せよ」
「君の頼みならいろはを手伝ってもいいよ」
 葉山は言う。
「なんで俺がお前に頼むんだよ。お前が気になるならって思っただけだ」
 暴れたせいで比企谷の手から資料が数枚床に散らばる。
「ああ、もう、お前のせいで」
「悪かった」
 葉山は謝ると蹲って落ちた資料を拾い集める。
「俺が気になるのは君だよ。だから助けたいんだ」
「いらねえよ。無償の親切は他の奴にやってやれ」
「俺は何の見返りもなく手伝ったりしないよ」
 葉山は俯いたまま言う。
「俺に何か見返りを求めてるのか」
「そうかも知れない」
 葉山は立ち上がり資料を比企谷に差し出す。
「君は見返りをくれるのかい?」
 比企谷は葉山の手から資料を奪い取り早足で廊下を歩く。どんな見返りが欲しいのだと冗談ならそう聞いて流してしまえる。今はそんなことは聞けない。あいつの言葉は透明な刃だ。窓から見える樹々が揺れる。桜の花弁が風に舞う。

 奉仕部にプール掃除の手伝いの依頼がきた。例によって平塚先生からでプール開き間近だから急いで頼むという。炎天下の中かなり大仕事なので他にもメンバーを募ってもいいと言われる。よせというのに由比ヶ浜が葉山グループの面々に声をかけた。お陰でこの有様だ。
 空中に散布される飛沫が虹の橋を架ける。戸部たちはホースを振り回してあちこちに虹を作りモップでチャンバラをしている。はしゃぐ彼らの様子に比企谷は呆れる。びしょ濡れになってもこの暑さならすぐ服は乾くだろうけど。首筋に流れる汗を拭いながら比企谷はモップでプールの底を磨く。
「呼ばない方が早く済んだんじゃないかって顔だね」
 葉山が側に来て言う。
「あいつら小学生かよ」
「楽しくやった方がいいだろ」
「さっさと済ませて帰りたいんだ俺は、うわっ」
 そう言った瞬間背後からいきなり水をかけられて比企谷は転ぶ。
「ヒキタ二くん、ごめーん」
 戸部かよこの野郎。手をついて謝れこの野郎。比企谷は心の中で毒づく。
「大丈夫かい?」
 葉山は心配そうな顔をして比企谷を助け起こそうと手を差し出す。比企谷は葉山に手を伸ばそうとして止まり手を引っ込める。葉山がその様子に気付き訝しげな表情を浮かべて手を伸ばす。掴もうとする手を比企谷は振り払う。
「お前の手は借りない」
「何言ってるんだ」
「自分で立てるからいい」
 葉山は眉根を寄せると比企谷の手首を掴んで引っ張り起こす。比企谷は葉山と目を合わさずその場を離れる。
 あらかた掃除してあとは後片付けだけになる。先に帰ってくれと言い残して比企谷は道具を持って用具室に向かう。すぐに戻ると彼らに会うかも知れない。気まずいし面倒だ。片付けついでに中を整理していると背後から葉山に声をかけられる。
「大変そうだね。手伝うよ」
「いらねえよ。お前なんで来んだよ。意味ねえじゃねえか」
「君がそのつもりじゃないかと思ったからだよ」
 葉山は悪戯っぼく微笑んで片付けを手伝い始める。このまま自分が帰るまでいるつもりだろうか。どう切り抜ければいいんだ。
「何で俺の手を掴まなかったんだ」
 突然葉山は言う。
「別に、自分で立てるし」
「はじめは手を伸ばしたじゃないか」
「条件反射というか間違えたんだ」
「間違えてないだろ。君は何でそう思うんだ」
 葉山の物言いに苛々する。何も間違えたりしてないはずだ。混乱させられる。正面に立つ葉山を避けようとして腕を掴まれる。もぎ離そうとするとその腕も掴まれ両腕を拘束される。
「条件反射で手を伸ばしたんだろ。なら俺の手を取るのは君には自然なことなんだよ」
「間違えたって言っただろ」
「君にああやって手を伸ばして欲しいんだ、俺は」
 葉山に掴まれた腕が熱い。見下ろしてくる瞳に戸惑う自分の顔が映っている。俺はなんて表情でこいつを見ているんだ。
「比企谷、俺は」
 葉山から顔を逸らし動揺を隠して比企谷は声を絞り出す。
「帰れよ。これは俺の仕事だ。お前は手を出すな」

 昼休みにいつものコーヒーを買おうと渡り廊下を歩いていると、向日葵の花が咲く花壇の向こうで葉山と由比ヶ浜が話しているのに気づく。比企谷は立ち止まり2人の深刻そうな様子につい隠れてしまう。向日葵で隠れているせいか気づかれてないようだ。
「言えないよ好きなんて。言えばきっと終わっちゃう。怖くて言えない」
 比企谷はどきりとする。由比浜が誰のことを言っているのかわからないが、このまま聞いてるとまずいよな。引き返すか駆け抜けるかどうするか考えて固まる。
「あ、例えばの話だよ」
 例えばの話かとほっとする。とはいえ立ち聞きは良くないしと来た道を戻りかける。想いよりも大切にしたいものは自分にもわかる。
「俺は壊したいよ」
 葉山の言葉に立ち去りかけた足が止まる。
「今の状態は俺には全然望む形じゃないんだ。こんな形しかないなんてストレスが溜まるよ。俺はもっと」
 そこまで言いかけて葉山が言葉を噤む。
「心が悲鳴を上げているのに自覚しようともしない。手を差し伸べようとしても振り払われる。その悲鳴はずっと聞こえているのに。手を伸ばしたいのに。もう聞こえてるのがどっちの悲鳴だかわからないんだ」葉山は俯く。「いっそめちゃくちゃにしてしまえばいい思う時もある。どうすればいいんだろうね」
 由比ヶ浜が心配そうに葉山を見つめている。
「例えばの話だよ」そう言い葉山は笑う。「そろそろ戻ったほうがいいよ。俺もすぐ行くから」
 由比浜の去った後、葉山がため息をつき呟くのが聞こえる。
「結衣、ごめん」
 比企谷は急ぎ足で立ち去る。足音に気付かれてなければいいが。葉山の口から出た物騒な言葉は多分聞いてはいけないものだ。

「友達にはなれなかっただろうね」
 あいつはそう言った。
 比企谷は渡り廊下を避けて別の道を通り自販機に辿り着く。硬貨を投入しながら千葉村での葉山の言葉を思い出す。内心そう思っていたとしても本人を前にしてそんなこと言うような奴だとは思ってなかった。しかも人当たりの良さではナンバー1の奴にだ。そう言ったくせに、それからもやたらと近寄るのは何故なのか。パーソナルスペースに勝手に入ってきては居座ろうとするのは何故なのか。あいつの言葉とはちぐはぐな行動に掻き乱された。 
 林間学校ではあいつに頼った。文化祭では多分頼ったんじゃなく利用した。あいつが気づかないわけはないけれど構わない。誰も傷つかない完全世界の完成のはずだった。あいつはそれを台無しにした。結果じゃない。俺の中であの時あいつに台無しにされた。
 自販機側のいつもの場所に座ってコーヒーを飲む。
「ここ、いいか」
 いつの間に来たのか葉山が背後から声をかけてくる。
「良くない」
 そう言うのに葉山は勝手に隣に座る。
「お優しい人の葉山くんは良くないって言うのに聞いてくんないのか」
「優しい人なんて思ってないだろ、君は」
 葉山は苦笑する。
「そんなこともないぞ。多少は」
「俺は皆に期待されるいい人間になりたいよ。でもまだ今は違うけど」
 葉山は遠くを見つめて言う。
「そんな外側を目指せばいずれ内面も追いつくと思ってる」
「ふうん。お前が望み通りそうなって益々人気者になっても俺には関係ないね」
「君はそんな風に言うんだな」
「そりゃそうだろう。お前はお前だし」
 少し迷って言葉を続ける。
「悲鳴なんてねえよ。幻聴だろう」
「聞いてたのか」
「悪いな。聞くつもりじゃなかったけど。誰のことかとは聞かねえよ」
「君のことだ。わかってるくせに」
 葉山は比企谷の肩を掴み自分の方を向かせる。
「俺は君にも優しくしたいと思ってるんだ」
「そんなこと思ってんのかよ。ならお前ただの嫌な奴だな」
「君は俺が君に優しくすることすら許さないのか」
「優しくってお前のは違うだろ。見下してるってことだろ」
「君が好きだからだ。そんなこともわからないのか」
「お前がそうしたいってことか」
「そうだよ」
「人にしたいことって自分がしてほしいことなんだったよな、葉山」
「そうだよ」葉山は比企谷を切なげに見つめて言う。「君に優しくしてほしいんだ、俺は」
「優しくしてやろうか?」
 そう言って葉山を見ると惚けたような表情で絶句している。そうだろうよと可笑しくなる。
「ああ、悪かった。人によるよな。やっぱり俺はねえよな。似合わねえし」
「君は残酷だな」葉山の声が少し震えている。「優しくする気なんか全然ないくせにそんなこと言うんだ」
 怒らせたのだろうか。なんでこんなことで怒るんだ。比企谷は内心の動揺を隠して言う。「俺達はそんな仲じゃないだろ」
 葉山は比企谷から視線を逸らし俯く。
「君が嫌いだ」
 以前葉山が比企谷に放った言葉。また言うのかと少し驚く。
「いい人を目指すくせにそんなこと言っていいのかよ」
 葉山は薄く笑う。
「ちょっとは傷ついたかい?俺はこんなこと言いたくない。でも君にはこんな言葉しか刺さらないんだな」
 挑発して反応を見ているのか。何なんだこいつは。
「お前と話すと不愉快になる」
 比企谷は苛立ってそう言いながら腰を上げる。
「そんな難しいことを望んでるわけじゃない。君を知りたいし俺を知ってほしいだけだ」 立ち去る比企谷の背に向かって葉山が言葉を投げかける。
 比企谷は歩みを早めながら思い出す。文化祭の日に屋上で壁に叩きつけられた背中の痛み。あいつの辛そうな眼差し。瞳に映る自分の顔よりずっと傷ついてみえた。そんなものを見るまでわからなかった。幼い頃なら心をざわつかせるような者とは友達にはなれない。気持ちの処理が出来ないからだ。だからといってざわめきが収まるわけじゃない。俺たちはもうその正体がわからないほど幼い子供じゃない。
 マラソン大会の時にあいつが言った「君が嫌いだ」という言葉。あいつは本当にそう思っていたらそんなことは言わない奴なのだと知っている。俺はあいつが理数クラスを選ぶ道を示したつもりで塞いでしまった。理数を選んで違うクラスになったとしても仲間は離れないとあいつは知っていた。ならば迷っていたのは彼らのことではなかったのだ。クラスが違ってリセットするのは俺だけだ。あいつが言ったように。俺は間違いなくリセットするだろう。同じクラスでなければ接点はない。俺がそう言うことであいつはそれに気づいてしまったんだ。あいつは言った。「君の言う通りにはしない」と。
 嫌いだという言葉通りの意味ならば楽だった。どうにもならない謎は謎のままでよかった。あいつと二人きりになるとろくなことがないんだ。大体ここは一人きりになれる場所だったのに、いつの間にか二人になる場所になってしまっている。
翌日から比企谷は自販機に行かなくなった。

 比企谷は思い起こす。風の強い冬の日の帰り道。
 あの時から俺はあいつとの距離の取り方がわからなくなった。それまで俺たちは自然だと思える距離を保っていたんだ。由比ヶ浜から聞いたのか、葉山が奉仕部に顔を出したあの日。用があると言い2人は既に帰っていた。自分も平塚先生に報告を終えて丁度帰ろうとするところだった。
「俺は君と繋がりを取り戻せたし、奉仕部も仲直りしたんだろ。結果オーライだな」
 教室には比企谷が一人だったからか開口一番葉山はそう言った。
「これっぽっちもお前の貢献はねえよ。お前との繋がりなんて元よりねえし」
 葉山は比企谷のやり方を真似たとか言って変な庇い方をして自分を怒らせただけ。結果は不器用なものだった。あれが望んだ結果だというなら誰が得をするというんだ。
「君を怒らせて本音を引き出したんだ。それ以上だよ」
 不愉快な思いで葉山を睨む。土足で俺の中に踏み込んだくせに何を言ってるんだ。それはお前の仕事じゃないだろう。人の心はなかなかわからない。自分に向かう人の気持ちは尚更わからない。ことに葉山は難解だ。対人スキルが低いかわりに人の心を外から論理で考えようとして、俺は俺なりに一生懸命なつもりなのだが。
 比企谷が席を立つと葉山もそのまま連れ立って歩き出す。こんな時に限って自転車登校じゃないなんてなんてタイミングが悪いんだ。帰り道を黙って一緒に歩く。話すことがないなと気まずく思っているといきなり葉山が喋り出す。
「悪かったと思ってるんだよ。捻くれて人を信じない期待しない、そんな君を否定したくせに。それなのに俺までが君を頼って傷つけた」
「別に傷ついてねえけど。ほんとに悪かったと思ってんのか?悪口が混じってるぞ」
葉山は比企谷の顔を見て笑い、ふいっと視線を逸らす。
「君が人に好きなんて言うとは思わなかった」
「俺でも嘘なら言えるもんだぜ」
「もうそんな嘘はつかないでほしい」
「ああ、まあ、そうだな。でもそんな機会はねえだろもう。お前はやめた方がいいぞ。後ろから刺されるかもな」
「俺はそんな嘘はつかない」葉山は強い調子で言い切りさらに続ける。「君は何もわかってない」
 比企谷は葉山に口調に少し気圧される。
「なんだよ。俺が何をわかってないってんだ」
「絶対頼みたくない相手に頼み込んでまで機会を作ったのはなんのためだと思うんだ。少しは考えてくれてもいいだろう」
 葉山は憤ったように言う。怒鳴りたいのを我慢しているかのような声に比企谷は面食らう。
「俺は君とあのまま疎遠になりたくなかったんだ」
 葉山は比企谷の方に顔を向けて見つめる。
「別に仲良しでもねえだろお前とは」
「いてほしい唯一の相手が側にいてはくれないのがどんなに辛いものか、君にはわからない」
 比企谷は驚き言い返そうとして言葉を探すが見つからない。葉山は比企谷に笑いかけて続ける。
「側にいたいんだ」
 葉山は歩みを止め、比企谷も立ち止まる。
「本当に人を好きになったことがない、君も俺もとあの時言っただろ」
「お前と俺を一緒にするなよ。全然違うだろモテ男とは」
 比企谷は顔を逸らす。ダブルデートを仕掛け無理やり連れ出したのも元はそれを伝えるのが目的だったようにあの時は思っていた。
「俺はわかってなかったんだ。思い込みは好きとは違うだろ」
 比企谷は言う。虚像に勝手に期待していたのが昔の自分だ。
「俺は今ならわかるよ」
 いつになく低い声に比企谷はその顔を振り見る。葉山は比企谷を眩しげに見つめて言う。突風が木の葉を巻き上げる。樹々がざわめく。
「好きなんだ、君が」
 比企谷は唾を飲み込む。真っ直ぐに比企谷を見つめて紡がれる葉山の言葉は透明な刃だった。見えない刃が俺を切り裂く。裂けた傷口から血が流れる。
あれからずっと俺の中の何かを切り裂かれ続けているんだ。

 教室で顔を会わすことはあれど葉山と2人きりになる機会はなく、穏やかに数日経った。夕刻の影が長く伸びる帰り道。比企谷は校門の前で背後から葉山に呼び止められる。
「待ってたんだよ。君に渡したいものがあるんだ。家に来てほしいんだけどいいか?」
「明日じゃダメなのか?」
「どうしても今日じゃないとまずいんだ。頼むよ」
 そう言われると行かないわけにもいかない。葉山と由比ヶ浜の会話を立ち聞きしたあの時の会話でのばつの悪さもある。彼の家に向かうことを承諾する。途中でファーストフードに立ち寄ると葉山は夕食なんだといいながらバーガーのセットを購入する。
「今日は両親は仕事で帰らないんだ」
 そう言いながら葉山は比企谷の分のバーガーセットも頼む。
「なんで俺のまで」
「わざわざ来てくれたお礼だよ。食べてくれよ」
 小町に言って夕飯は少なめにしてもらおう。そう思いながら一緒に食べる。
受け取ったらすぐ帰るつもりだったが家に着くと上がるように言われる。背後で家の内鍵を締める音がする。比企谷は用心深いことだなと思うが特に気には止めない。
「なあ比企谷」
 廊下を歩きながら葉山が言う。
「なんだ」
「助けあい頼りあい、好意を示され好意を返すそんな関係がいいと思わないか」
「お前は陽乃さんの言ってた出鱈目に惑わされ過ぎだな」
 比企谷は言う。
「利用し合う、じゃないのか」
「君はなんでそういう考え方しかできないんだ」
「人の心なんかわからないぜ」
「知ろうとしないだけだろう」
「俺にそんなことを言うお前の気持ちは尚更わからないけどな」
「君は人の心を身の内に感じるのが怖いんじゃないのか」
 葉山は更に続ける。
「陽乃さんの言葉に惑わされてるのは君の方だろう」
 比企谷は答えに詰まり黙り込む。言い合いをしにきたわけじゃないのになんでこうなるんだろう。
「ここが俺の部屋だよ」
 葉山の部屋に入ると突然背中を押される。腕を押さえつけられ背中に人の重みを感じて比企谷はベッドに押し倒されたと気づく。腕を縫い付けられ組み伏せられ身動きが取れない。びっくりして背後の葉山に問う。
「葉山?なんだよお前」
 腕と足を絡め取られ押さえつけられる。振り向き見上げると葉山の射るような視線とぶつかる。
「騙すようなことをしてすまないな」
「騙すって、何をだ?なんでだ?」
「比企谷、君がどう思おうと俺は変えたいんだ。」
 見下ろす葉山の瞳は怖いくらい澄んで鈍く光っている。竦んで動けなくなる。
「壊したいんだ。俺と君の今の状態を」

 拡げるように抽送し蹂躙していた指が尻から引き抜かれる。シャツだけを着たままで下半身は剥き出しにされている。ぼうっとした頭に背後でベルトを外す音が聞こえる。何かが押し当てられる。うつ伏せのまま尻を突き出す獣のような姿勢をとらされる。
「あっ、うあっ」
 引き裂かれる痛みと圧迫感に叫ぶ。背後から身体が押し開かれる。体内に挿入される体温。あいつの身体の一部。あいつのペニスか。嘘だろ、こんな。逃げをうつと腰を引き寄せられさらに深く穿たれる。
「きついな。力を抜いてくれないか」
「何言ってんだよ」
 シャツをたくし上げ剥き出しにした背中を愛撫していた手が股の間に回る。ペニスを掴まれ身体が竦む。
「何するんだよ」
「怖がることないよ。悪いようにはしない」
「何が悪いようにはしない、だ」
 ゆっくりと中心が葉山の指に扱かれる。他人の手に触れられている事実に混乱する。緩急をつけて嬲られたペニスが芯を持ち始める。竿を包むように蠢いていた掌が先端に移動し亀頭を優しく扱く。身体の奥から熱い痺れがせり上がってくる。いかされるのか。こいつに。比企谷は混乱する。
「やぁ、離せよ、葉山」
 腕を前に伸ばし掴める物を探す。身体が揺すられ奥に突き入れられ衝撃に息が詰まる。同時にペニスが震え熱くなり迸りを相手の掌に出してしまう。また揺さぶられる。
「あ、待てよ。今は、ああ」
「待たない」
 射精して弛緩した身体を容赦なくあいつのペニスが穿つ。何度も突かれ身の奥深く貫かれてゆく。身体が葉山の形に切り開かれてゆく。
「全部入ったよ。比企谷。わかるかい」
 荒い息を吐きながら背後の相手が告げる。憤って後ろを振り向くと葉山が口角を上げるのが目に入る。中で肉の棒を左右に動かされ思わず喘ぎ声を漏らす。臀部の接合部にあいつの皮膚と体毛が密着しているのを感じる。
「君と俺の身体を繋いだ。いいね、動くよ」
 腰が引かれ体内に収まっていたペニスが引き抜かれる。また押し入れられ深く抉られ、また引き抜かれる。繰り返し内壁を擦られ痛みと甘い痺れが押し寄せる。熱くて堪らない。こいつの体温に中から溶かされていくようだ。感じてはいけない感覚のような気がして動揺する。
「離せよ。頼む」
 哀願する声が掠れる。
「聞けないな。そんな声で言われても」
 ぐっと腰が押し付けられ奥まで入れられる。ぶるっと体内のペニスが震え熱い飛沫に中を濡らされる。しばらく押し付けられ緩く揺すられる。やっと蹂躙していた屹立が後孔から引き抜かれる。体内をみっちり満たしていたものがなくなり奇妙な喪失感を感じる。
「顔、見せてくれ」
 身体を起こされ仰向けにされる。両足を広げられ腰を密着させられる。互いのペニスが触れ合う。今まで自分の中で別の生き物のように動き凶器のように貫いてきたもの。それが柔らかくなり元の形に戻っている。固さを失ったのは自分の中で達したからか。その事実が生々しく心を打ちのめす。
 葉山は比企谷を熱の籠った瞳で見つめながらシャツを脱ぐ。引き締まった身体が露わになり思わず目を背ける。葉山は比企谷のシャツも脱がしてしまうとベッドの下に投げ捨てる。葉山の身体が上に覆い被さる。汗ばんだ素肌が直に触れ合う。鍛えられた胸筋と腹筋が押さえ込むようにのしかかる。
「いい表情だね。俺がさせたんだな」
 相手は情事の後の色気を滲ませてにっこり笑う。悪気など感じられないただ純粋な笑み。こいつの笑みは胡散臭いと思う時もあるけれど。今浮かべているのは人を安心させるような優しい笑みだ。なのになんで俺を。
「どうしてお前が」
「わからないのか、比企谷」
 身体を起こすと葉山は膝に両足を抱え上げふたりのペニスを一緒に纏めて掴み扱き始める。葉山の無骨で厚みのある掌の温もり。竿を包む皮膚同士が触れ合い擦られる。互いのものが勃ち上がる。
「待てよ」
「まだ夜は長いよ。教えてやるよ、君の身体の奥に。きっと心にも届く」
 両足が曲げられ葉山の勃起した性器の先端が後孔に押し当てられる。ぐっと身体を進められると亀頭が入り口を押し広げる。更に腰を揺らされると先程の挿入で体内に作られた道が滑らかに葉山を通してしまう。
「はやっ、待てって」
 肌を打ち付ける音がまた始められた性交を告げる。身体が揺さぶられる。強く突き上げられ圧迫感に仰け反る。
「比企谷、君は」葉山が言いかけた言葉を切り悲しげに眉根を寄せる。「いや、言葉では通じないんだな。君には」
 強く突かれ抉られ声にならない悲鳴を上げる。開けた口を葉山の唇が塞ぎ音のない悲鳴ごと呑み込まれる。浸入してきた舌が歯列をなぞり比企谷の舌を探り絡ませ執拗に口内を犯す。
 部屋を照らす青い光。窓から優美な細い月が見える。美しく弧を描いた月は陽乃の笑みに似て艶やかに輝き、自分達の交わりを見下ろして嗤う。

END

 

金星の光(R18)

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左右に押さえつけた比企谷の腕を一纏めにする。片手で容易く押さえつけられるなんて、日頃の運動が足りないだろう。空いている方の片手でシャツのボタンを外してゆく。
唇を合わせ比企谷の口を開けさせて舌を差し入れる。舌を探り当て絡ませ口内を貪る。深いキスをしながら覆い被さり肌けた身体を密着させる。組み敷いた身体の体温と鼓動を感じる。熱くて溶けそうだ。首筋に顔を埋め唇を当て吸い付く。舌を這わせ肌にいくつもキスをする。脚の間に手を伸ばし下着の中に入れる。ペニスをさすり優しく擦る。びくりと比企谷の身体が震える。後孔に指を滑らせる。意を察して起こそうとする比企谷の身体に体重をかけて動きを封じる。人差し指を挿入して抗う身体を押さえつけ後孔から前立腺を嬲り勃起させる。指を引き抜き潤滑液をつけてまた挿入し塗りこめるように指をこね回す。弄るほどに熱い肉が柔らかくなり滑らかに受け入れる。指を増やして捻り入れては奥まで広げてゆく。
「はや…」
喘ぎ声混じりの比企谷の声。葉山か、それとも隼人と呼んでくれるのか。だが言葉はそこで途切れてしまう。
「ひき、がや」
声が上ずる。上目づかいに俺を睨み付ける比企谷に息を呑む。上気した頬に涙ぐんだ瞳に喘ぐような息遣い。俺のつけたキスの跡が肌に散らばる。堪らない。
勃起したぺニスをあてがい擦り付けるように探る。腰を押し付けてゆき先端をゆっくり押し込む。
「いや、だ」
比企谷が引き攣ったような声を上げる。構わずに張った雁を全て比企谷の身体に埋め込む。
「葉山、もう」俺の名を呼ぶ比企谷の声が耳を擽る。ゆっくりと竿を押し入れてゆく。俺が動くたび比企谷の身体が揺さぶられる。熱く吸いつき締められる中の感触。溶け合ってゆく身体。
わかってるだろう?君と俺は同じなんだ。


階段を上り屋上へのドアを開けるとその先に比企谷がいる。抜けるような紺碧の空の下。張り巡らされた金網に指を掛けて佇んでいる。名を呼ぶと振り返って俺を見る。冷ややかな瞳に挑みたいと一歩進む。
また同じ夢を見た。彼に辿り着くことのないそんな夢を見て、目が醒めるといつも堪らなく寂しくなる。現実では手を伸ばしたくて伸ばせなくて。自分がどんなに彼を求めているのか思い知らされるからだ。

葉山は教室の反対側にいる比企谷を見つめる。だるそうに頬杖をついて授業を受ける姿に何度も目をやり、その度心の中で話しかける。
君が嫌いだ。
捻くれて頑なな君が
俺には出来ないことをやってのける君が
君に対しては俺は平静でいられない。
装うことができない
自分を押さえられない
隠しているものを暴かれる
俺の嫌な部分ばかり思い知らされる。
俺はもっとマシな人間だと思いたいのに。
エゴイストで偽善者だと見抜かれてるようで
なのに君から目が離せない。
人からどう思われても構わないと
他人も自分も傷つける君を見ると辛くなる
いつも君のことばかり考えてしまう。
仲良くなれないと言ったけれど
仲良くはしてくれないのは君だろう。
受け入れてくれないとわかってるのに
相容れないとわかっているのに
見つめるだけで苦しくなるのに
なのに俺はどうして君が欲しいんだ。
君だけをどうしてこんなにも。
こんなのは俺じゃない。
孤高のその姿は遠く。切り取られたように鮮やかに映る。君をわかりたい。分かりあいたいたい。君を知ればこんな迷いはなくなるだろうか。

休み時間になり葉山は机に突っ伏した比企谷のところに足をむける。人の気配を察して億劫そうに比企谷が顔を上げる。
「相談があるんだ」
「依頼かよ?今忙しいんだけど」
「暇にしか見えないけどね」
訝しげな表情を浮かべながら比企谷は葉山についてくる。人気のない階段下に来ると葉山はこれから毎日放課後付き合って欲しいと頼む。比企谷は眉を顰める。思った通りの反応だな。でも引くわけにはいかない。
「はあ?なんで俺が」
「試してみないか。俺は君と何らかの関係が欲しい。」
「なんで俺がそんなのに付き合わなきゃいけないだよ」
「期間限定だ。そうだな。中間試験の終わりまでならどうだ」
「俺になんかメリットあんのか」
「依頼だと思ってくれていい。何の関係も生まれないならそれはそれでいい。もう君にそんな頼みはしない」
「お前にも何にもメリットないだろ」
「俺は、はっきりさせたいんだ」
葉山の押しの強さに比企谷は折れる。
「わかった。期間限定だな。そこは守れよ」
「すまないな。じゃあ、放課後自転車置き場で待っててくれ」
「今日からかよ!?」
驚く比企谷に念を押す。
「放課後、絶対いてくれよ」

「で、何がしたいんだ?」
自転車を押して連れ立って歩きながら比企谷が訊く。
「君の家に行きたい」
そうい言うと比企谷は顔を顰める。
「えー。ちょっと嫌かな。初めて家に来るのがお前ってのは」
「なら尚更家がいいな。頼むよ」
比企谷の家に着き彼に続いて家に上がろうとすると玄関先で止められる。
「ちょっと待ってろよ」
リビングに通じるドアの向こうからバタバタと音がする。暫くして比企谷が出てくる。
「待たせたな。上がれ」
「あ、ああ」
葉山にリビングのソファを指し示すと比企谷はまた出て行く。二階でバタバタと音がする。葉山はいきなり来たのは悪かったかなとちょっとだけ反省する。気を使わなくてもいいのにな。だが機を逃したくなかった。それに慌てる比企谷という珍しいものを見れたのは悪くない。
「小町が帰るまでならリビングでもいいけどどうする?」
「君の部屋がいいな」
比企谷の案内で階段を上がる。
「葉山、何がおかしいんだ?」
一体どこを片付けたのか雑然とした部屋に吹き出してしまう。比企谷はありありと不機嫌になる。

その日から放課後の付き合いが始まった。2人は待ち合わせて共に帰ることになった。
翌日葉山は比企谷を家に誘う。渋る比企谷の自転車を掴んで家に引きずってゆく。リビングを素通りして自分の部屋に通すと比企谷は目を丸くする。
「人が住んでる部屋にみえないぞ。モデルハウスかよ」
整然とした部屋を見て居心地悪そうにしながら比企谷は言う。
「褒めてるんだよね?いつもこんなもんだよ」
リア充はいつでも人が呼べるように片付けてんだな」
「外で遊ぶ方が多いしそんなに家に呼ばないよ」
「お前の部屋見たし帰っていいか?」
「何言ってんだよ!?」
葉山は慌てて立ち上がりかける比企谷を押し留める。
「だって、何もねえじゃんこの部屋」
「本もゲームもあるよクローゼットに」
そう言いながらクローゼットを開ける。葉山に顔を寄せるように覗き込んだ比企谷が感嘆の声を上げる。
「すげー、収納すげー。なんで隠してんだ」
「だから片付けてるんだって」
そう言い返しながら確かに最近は手に取ることもなくなったなと葉山は思う。頬にさらっと比企谷の髪が触れる。顔が近い。手に届くところにいつもあればいいのか。
「比企谷の好きそうなのはあるか?いつも出しておくよ」
比企谷の選んだ対戦ゲームをしながら葉山は比企谷に言う。
「君に対しては皆本音で話すんだよな」
「気を使わなくていいって思ってるだけだろ」
「羨ましいよ」
「本音で話さない奴に誰も本音で話さねえよ」比企谷が画面から目を離して葉山の方を向く。「でもお前はその方がいいんだろ。ほんとはそこを羨ましくなんてねえだろ」
比企谷は葉山を見つめて言う。葉山は違うと言えない。自分を晒してまで皆の本音を聞きたいわけじゃないし聞いたところで受け止める気はないのだ。
「その通りだよ」そう答える。「でも羨ましいのは本当だよ」
「お前、そうじゃなくてさ、なんか言い返せよな。俺だって本音なんて吐かねえよ」
そう言いながら本音を聞いた比企谷は全部受け止めてしまうのだ。

比企谷は葉山の部活の終わる頃に自転車置き場で待ち、比企谷が部活の時は葉山が待つ。葉山が時折窓を見上げるとグラウンドを眺めている比企谷がいる。待っててくれていると思うと葉山の胸に何か温かいものが満ちる。比企谷の部屋に行ったり葉山の家に連れて来たり家を行き来する毎日が当たり前になってくる。初めの頃は部屋に人がいるのが落ち着かない様子で挙動不審だった比企谷も段々葉山に気を使わなくなる。比企谷との本を読んだりゲームをしたりするのんびりした時間が楽しくなる。ふと寝っころがり本を読む比企谷を見つめる。寛いでいる姿を見ると学校でだらっとしているのも気を張っているのだと感じる。伏せ目だと端正な顔立ちがよくわかるなとじっと見つめる。顔を上げた彼と目があう。
「葉山、こういうのでいいのか?」
「ああ、楽しい」
「そうか?よくわからないなお前」
寝転ぶ比企谷の側ににじり寄る。
「キスとかしても楽しいかも」
「俺は嫌だ」
「怖い?したことないだろ」
「そうだよ、ねえよ。悪いかよ」
「試してみるかい」
比企谷を仰向けに転がし上に跨る。屈み込み人差し指で比企谷の唇に触れてみる。少しかさついて柔らかい。唇を舐めて湿らせてみたい。顔を背けられ指が離れる。
「初めてがお前とか、ぜってえやだ」
「つれないな」
「重いからどけよな」
「どかしてみればいいだろ」
葉山は体重を掛けて比企谷の身体を抑え込む。比企谷は覆い被さる体躯を押しのけようともがいて腕を突っぱるが逃れられない。諦めたのか抵抗が止む。
「このままでいいんだ?」
「これだから体育会系は嫌なんだ。どうすりゃどいてくれんの」
「キスしてみようよ」
「お前な。もうこのままでいいわ」
比企谷は呆れたように言い、抑えられた態勢のまま本を読み始める。葉山は苦笑して比企谷の肩口に顔を伏せる。こんな近くに比企谷を感じるのは初めてだ。シャツ越しに温もりを感じる。鼓動が重なる。

中間試験中は部活が休みになる。外に遊びに出ようと提案すると思ったとおり比企谷は渋る。
「お前と一緒とかぜってえねえよ。誰かに見られるだろ」
「別に困ることないだろ」
「お前はそうでも俺は目立ちたくねえの」
「ならこの辺じゃなければいいだろ」
仕方なく比企谷が折れ電車に乗って隣町に行く。駅を降りて街中をただ気まぐれに歩くだけ。でも隣に比企谷がいる。それだけで心が浮き立つ。
「どこに行きたい?」
「帰りたいんだけど。どこだよここ」
葉山は比企谷の手を掴んで歩きだす。
「おい、手」
「繋がないと人に流されるだろ」
人混みの中で迷わないようにとそう思って繋いだけれど、どさくさに掴んだ比企谷の手の平はじわりと温かい。通りに出てから離されそうになった掌をぎゅっと握り直す。大型書店に通りがかりに入ってみる。はじめはだるそうにつきあっていた比企谷だが書店には興味を示す。めいめい好きなコーナーに別れる。気に入ったらしい本を購入しているところを葉山に見られ比企谷はバツの悪そうな顔をする。
「来て良かったんじゃないか」
「別に家の近くの本屋でも買えたけどな」
本の入った袋を抱えて比企谷はぼそぼそと言う。
ゲームセンターにも立ち寄る。家にもあると言う比企谷を宥め対戦ゲームをすると意外なほど熱くなる。昼過ぎになりファーストフードの店に立ち寄る。バーガーと飲み物を持ち帰りで頼むと比企谷が尋ねる。
「お前、食わねえの?」
「近くに公園があるからそこでいっしょに食べよう」
喧騒を離れ公園の噴水の前のベンチに並んで座る。バーガーを食べながら言う。
「たまには外出もいいだろ」
「たまーにはな」
拗ねたような物言いに葉山は微笑む。夕暮れになり帰りの電車に乗る。疲れさせてしまったのか葉山の肩に頭を持たせかけて比企谷は寝てしまう。意外に柔らかい髪の毛。寄せられた体温。鼓動が高鳴り聞こえてしまうのではないかと思う。遠く感じた存在が側にいる。すぐに触れられる距離に。ほうっとため息をつく。起こさないようにそっと比企谷の手を握る。

中間試験が終わっても葉山は自転車置き場で比企谷を待つ。約束のことは忘れたふりをして言い出さない。比企谷は首を傾げるがそのまま連れ立って帰る。家に寄ってもいいかと言うと比企谷は伺うような表情を浮かべるがいいと答える。だがある日葉山の家に寄らないかと言うと比企谷が首を振る。
「もう終わりだろ?」
「まだだよ。はっきりさせたいって言っただろ」
「お前、まだわかんねえの?」
「俺がわかるまで付き合う約束だろ」
比企谷が息を呑む。
「いつ終わるんだよ」
「いつって。俺は、俺は終わりたくない」
君との間の壁がなくなって嬉しかった。側にいて今まで知らなかった一面を見てもっと知りたくなった。それまで君を見て苛々していたその理由を自覚してしまった。一緒に過ごす時間はもはやなくてはならないものとなってしまった。それなのに。
「俺は終わらないと困るんだよ」
「なにが困るんだ。楽しくなかったのか」
「そうじゃない。そうじゃなくて。きりがないだろ」
「ずっとじゃダメか」
「ずっとなんて無理に決まってるだろ」比企谷が怒鳴る。
「いつ終わるんだ、まだかよって。考えながら付き合うのしんどいんだ。もう解放してくれよ」
弱々しく俯く比企谷の姿に葉山は愕然とする。
そうか。君には何の意味もなかったのか。俺は続けようとしていたのに。このまま続けられると思っていたのに。君は終わりを見ながら付き合っていたのか。結局俺は君にとっては関わりたくない人間だということか。
心の中がザラリとする。
「終わりにしてもいい。でも条件があるよ」葉山は比企谷の顎を掴み顔を上げさせる。「依頼なんだ。最後まで付き合えよ」

「約束だろう。比企谷」
葉山は部屋の鍵を締める。自宅には今2人だけしかいない。念のため。彼を閉じ込めるためだ。
「わかってる」
比企谷は唾を飲み込むと服を脱ぎ始める。葉山も服を脱ぎ手早く全裸になる。葉山の鍛えられた身体を見て比企谷は躊躇するが意を決したように下着を脱ぐ。比企谷はベッドにうつ伏せになり顔を枕に押し付ける。葉山が比企谷の肩に触れると身体がびくりと震える。怖いのか。だろうな。だからと言って今更止めてやれないけどな。葉山は比企谷の片脚を掴み曲げさせると後孔を晒す。比企谷が息を呑む。覆い被さるように勃起したものを尻に当てると比企谷が身体を捻りながら振り返る。
「なんだ」
脚を掴んだ手に力が篭る。逃がさない意思表示のつもりだ。
「何されてるのかわからないのは嫌だ」
比企谷は仰向けになり葉山を睨みつける。挑むような眼差しに恐れを滲ませたその色。葉山は唾を呑む。
「構わない。いやその方がそそるね」
「お前、最悪だ」
両足を折り曲げさせると身体を開かせる。ハンドクリームを指にとり中に丹念に塗りこんでゆく。指を根元まで抜いては入れる。狭いけど柔らかく内壁が絡み付く。
「あんまり深く入れんな」
「いいよ」
指が引き抜かれほっと力が抜ける。そこに葉山は指を3本束ねてまたクリームを塗り直し再度挿入する。抜かれて弛緩したそこに深く入れられ比企谷が仰け反り喘ぐ。
「葉山、てめえ、嘘つき野郎」
「俺だって我慢してる。君のためだ」
比企谷が黙りこみ葉山を睨みつける。前後に指を動かし深く浅く抉る。痺れるような感覚に時折比企谷は声を上げそうになり懸命に堪える。葉山は指を抜くとぺニスを扱き比企谷にあてがうと脚を抱え直す。
「もういいね」
腰を前に進ませると比企谷は息を止めてギュッと目を瞑る。その身体に亀頭を挿入してゆく。
「ねえ比企谷、今入れたのわかるかい?」
「わかるに決まってるだろ。太いもん」
「そうだよ。太いと言われると嬉しいね」
「指よりだ。ばかやろ。んあっ」
中を押し上げるように腰を進める。身体を揺さぶりさらに咥えこませる。熱い内壁が滑りぺニスを迎え入れる。比企谷が懇願するように葉山を見上げ首を振る。締め付けられて葉山は眉を顰める。
「力を入れるなよ。とうに入ってるんだ。痛くしたくない」
「無理だ。やめろよ」
「俺は気持ちいい。全部入れたい」
「この、お前、ひどくね」
「言っただろう。君を犯す」
葉山は比企谷にキスをし唇を啄む。抜き挿しするほどに肉を押し広げ深く入ってゆく。葉山のぺニスが比企谷の身体の奥まで届き中を蹂躙する。葉山は比企谷を揺さぶり激しく腰を振る。突き上げ、身体を引いてはまた突き上げる。声なく叫ぶ比企谷の唇に深く貪るようなキスを続ける。腕を脚を絡めあい互いの体温が混じりあう。
「比企谷」
掠れた声で名を呼び葉山は低く唸りぐっと腰を押し付ける。
「ちょっと待て、葉山」
察したのか喘ぎ声混じりに比企谷が抗議する。比企谷の身体を抱き込むと葉山は胸板を密着させる。足を開かせて腰を押し付けると穿つように激しく律動する。突くたびに比企谷の口から押さえ切れない呻き声が洩れる。下腹部から熱がせりあがる感覚を覚える。熱は先端に集まり芯が拍動する。
「葉山!」
比企谷が声を荒げて葉山の肩を叩く。その腕をシーツに縫い付けて見下ろすと目を合わせた比企谷が表情を強張らせ息を呑む。君を怯ませるなんて、俺はどんな顔を君に見せているんだろう。葉山はペニスを抜かず腰を押し付けると比企谷の体内深くに余さず出し切る。中に出すことは言ってなかったがそのつもりだった。俺は君の心には何も残せなかった。だからせめて君を奪って壊して。この身体の中に俺の身体が存在した痕跡を残すと。

昼休みに葉山は一人屋上に登ると空を見上げる。寝転びながら葉山は昨日の比企谷の乱れた様を思い起こす。この手で抱いてこの身体で犯した。何度も何度も。触れた肌は温かく汗ばんで胸の突起を舐めると少し塩辛くて。重ねた身体のさらに奥を暴いた。
葉山のものに貫かれ身を捩る身体。突いては抜き繰り返すうちになじんでいく柔らかな肉。痛みを堪える声に甘い嬌声が混じる。快楽を感じさせていると思うと堪らない。思いがけず肩にしがみつくように腕が回されて驚く。「動くな」と掠れた声で比企谷は言う。潤んだ目で俺を見上げてそんな顔で頼まれても聞いてやれない。もっと色んな表情を見たい。他の誰も知らない、君すら知らない表情をもっと暴きたい。比企谷を抱きしめると腰を引きぐっと深く突き上げる。比企谷が悲鳴を上げる。先から根元まで入れては抜く。肩口に顔を埋め首筋に吸い付く。肌に付いた赤い跡を見てさらにその隣にも跡をつける。身体を起こし見下ろす。胸にキスをする。吸い付くと比企谷が小さく声を上げる。
「簡単に跡がつくね」
「ちょ、やめろよ。人に見られたら」
「やめない」
乳首を口に含み舌で転がすように舐める。もう片方は指の腹で押しつぶすように撫でる。葉山の頭を退けようとする腕を押さえつける。腰を強く揺さぶり深く突き上げると比企谷の身体が強張り抵抗が弱くなる。
「俺に任せてればいいから」
「いいわけねえだろ」
揺さぶりを早くしてゆく。中の肉は収縮しては弛緩しうごめきペニスが擦られる。比企谷の身体に覆い被さり肌を合わせる。身体を打ち付ける音と中を擦る水音と荒い息遣いが響く。吐息を貪るように深いキスを繰り返す。
確かに手に入れた。そう感じた。
本当にあの1回だけなのか。もう抱けないのか。彼も感じていたように見えたのに。俺は忘れられるのか。欲しくてたまらなかった彼に触れて。彼を知って忘れられるのか。抱く前より膨れ上がってしまった想いに灼かれそうになる。比企谷。君はどうなんだ。
葉山は起き上がると比企谷を探す。授業中は席にいるのに休み時間になると比企谷は葉山を避けるように姿を隠してしまう。1人になりたいなら屋上かと思ったのになかなか見つからない。旧校舎の屋上だろうか。階段を駆け上がり扉を開ける。案の定求めていた姿を見つける。比企谷は金網越しに下を見ている。紺碧の空から金網で区切られ一人閉じこめられているように見える。葉山は一歩踏み出す。
「比企谷」
びくりと大きく比企谷の身体が震えるのが見える。だが振り返ったその表情はいつものふてぶてしさを装う。
「何だよ」
葉山が近づくと比企谷は後退りして距離を保とうとするがすぐ後ろの金網に後退を阻まれる。
「君は平気なのか?」
「何が」
「俺とセックスしただろう」
「何だよ。もうそれで終わりのはずだろ」
「忘れられるのか?俺に抱かれたこと」
「やめろよ」
比企谷の表情が変わる。葉山の言葉に動揺している。余裕のないこんな比企谷は初めて見る。歩を進めながら葉山はさらに容赦なく言う。
「忘れられないんだろう?だから避けるんだ」
「避けてねえ」
「俺は忘れられない。一層君が欲しくなった」
比企谷は葉山を睨みつける。
「約束破るのかよ」
「破るよ。君がそうなら守る意味もない」
葉山は足早に近寄り比企谷の退路を断つように追い詰める。出遅れた比企谷は後退る。今彼を逃すわけにはいかない。金網に手を掛けて囲い込み逃げ場を奪う。
「君は俺を忘れられない」
葉山は身体を押し返そうとする比企谷の片手を掴む。触れた手首が熱い。比企谷の身体が震えている。怯えているのは俺になのか。それとも。葉山は確信する。やっと君を捕まえた。
「俺を見て思い出さずにはいられないはずだ」
「やめろよ」
「君の身体にキスして。君の中に入れた」
「葉山、頼むからやめてくれ」
「君の身体は俺を覚えてる」
比企谷は俯くと囁くような小さな声で言う。
「こんなのわかんねえ。解放されると思ってたのに」
「比企谷」
「なんで終わったのにお前の顔を見るたびにお前とのセックス思い出すんだよ」
「俺もだよ。同じだ」
「同じじゃない。お前は慣れてるだろうけど俺は違う」
「俺は君が好きだ。君も俺が」
「違う。なんでそうなるんだよ」
「そうなるよ。俺と同じように」
「初めてだからだろ。お前なんかが初めてなんて」
比企谷はそう言うと顔を上げる。揺れる瞳に吸い寄せられるように、葉山はさらに一歩詰め寄る。
「こんなのは俺じゃない」
そう言いながら逃げようとする比企谷の両肩を掴む。細い肩に指が食い込む。
「でも戻れないよ。もう君じゃない君と付き合ってくしかないんだ」
「放せよ。頼むから」
比企谷は震える声で言う。瞳に怯えた色が見える。触れた掌から伝わる強張った身体の感触と体温。
「俺と同じなんだ」
葉山は捕まえた身体を引き寄せると腕を回しきつく抱きしめる。

END

 

習作 臨也編(R18)

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「君は俺のことが嫌いだろう?」
そう言いながら臨也は笑う。
臨也の部屋で帝人は机の上に仰向けに押し倒され両腕を拘束されている。唖然としているうちに下着ごとズボンを脱がされる。性器が空気に晒されてひやりとする。臨也を見上げると三日月のような笑みを浮かべて見下ろしている。しかし目は笑ってはいない。暗い熱を帯びた瞳が帝人を見つめている。

帝人はここに至るまでの経緯を思い出そうとする。何があってこうなってるんだろう。臨也の事務所に呼び出され学校帰りに立ち寄った。臨也は帝人をにこやかに迎えた。何もいつもと変わった様子はなかった。用事は何ですかと聞くと用事がないと呼んではいけないのかいと言われた。少しだけ不満そうな色が混じった口調だったようにも思う。そんなことはないですけど明日も学校があるのでと帝人は答えた。するとにっこり笑う臨也にパソコン画面を見るよう促された。机に近付いた瞬間景色が反転した。臨也の顔が間近にあり帝人はわけがわからず混乱し、動揺している間に身体の自由は奪われていた。

「臨也さん、何のつもりですか」
帝人は努めて冷静になろうとするが声は震えている
「君は俺のことをどう思ってる?」
臨也は帝人の脚の間に身を入れると両足を大きく開かせ秘部を露わにする。
「どうって、臨也さんは臨也さんです」
何かで濡らされた指が帝人の後孔に突っ込まれる。指は中を蠢めいて前立腺を探り捏ねられる。帝人は喘ぎそうになり唇を噛む。
「俺が好きかい?」
「そんなこと考えたこともないです」
「じゃあ考えろよ」
一気にぬるりと奥まで指を突き入れられて帝人は衝撃に息が止まる。臨也はローションを足して指を増やし帝人の中に捩じ入れ指をばらばらに動かして嬲り抽送させる。帝人は過ぎる刺激に悶える。性器は勃起しかけ後孔は痺れて熱くなる。
「やめてください」
「自分がどんな顔をしてるかわかってるのかい。堪らないね」
嗤う臨也を帝人は快感を堪えて睨む。臨也は指を引き抜き帝人の上に屈み込むと身体で押さえ体重をかける。
「君の顔に書いてあるよ。気持ちいいんだろう」
臨也は帝人に深くキスをする。帝人は身を捩るが逃れられられず蹂躙するような深い長いキスをされるがままになる。やっと唇が離され臨也は言う。
「君は俺のことが嫌いだろう?」
「そんなことなんで今聞くんですか」
「じゃあ好きなのかい」
「わかりません。どう答えればいいんですか」
「俺は君が好きだよ。だから君も俺を好きになるべきだ」
臨也はズボンのベルトを外し前を寛げ自身を取り出す。帝人は勃起したそれを信じられない思いで見る。臨也は帝人の腰を掴み熟れた入り口に陰茎を押し当て突き入れる。
「いやだ、ああ」
灼熱の圧倒的な質量が狭い肉を拡げてゆく。他人の体温が蠢き身体を侵す。臨也は縦横無尽に動かして帝人を攻める。腰を引きぐっと突き上げられ身を引いてはまた貫かれる。深く入れては奥を擦られ浅くしては前立腺を亀頭で押し潰すように嬲られる。痛みと快感に翻弄されながら懸命に耐える帝人の様は臨也の嗜虐心を煽る。
「君の中でいけば俺を忘れないだろうね」
「何言って、僕は女の子じゃないです」
「知ってるよ。女に中出しなんてしないさ。後が怖いじゃないか」
臨也は帝人のシャツを肌けて胸を愛撫し乳首を摘み弄る。舐めて噛みつく。
「いた、あ」
帝人は体内の屹立を柔肉で締め付ける。臨也は眉を顰め息を吐き帝人を見て笑う。
「締めるなよ。そんなに俺に中でいって欲しいのかい」
「違う、そんな」
「望みどおりにしてあげるよ」
「止めてください」
帝人は身体を起こそうとするが臨也に押さえつけられる。腰を押し付けられ臨也の陰茎が全て体内に収められ接合部の皮膚が触れ合う。激しく揺さぶられるたび中を行き来する性器に擦られる。打ち付けられる肌が音を立てる。臨也は組み敷いた若木のような身体に覆いかぶさる。
「これで君の身体は俺を忘れないよね。君の心を壊してあげるよ」
臨也は耳元で獣のように唸り腰を押し付けて組み敷いた少年の身体の奥に吐精する。帝人は体内に埋め込まれた屹立がぶるりと震えるのを感じる。
「君は立ち直るだろう。そしたらまた壊してあげるよ。何度でも」
引き抜かれた臨也の陰茎の先に残滓を見て確かに自分の中でこの男はいったのだと思い知る。
「どうして」
「俺は君が好きだからね」
臨也は残滓を絞り精液を少年の陰茎に塗りつける。自分のものと合わせて片手に握ると一緒に擦りあわせる。扱くうちに硬さを取り戻すと離しそれをまた帝人の後孔に押し付ける。
「臨也さん、どうして」
帝人は動揺する。後ずさる身体を押さえつけられる。開かされた両足が臨也の膝に乗せられる。
「一度で済むと思ったのかい?君を壊すと言っただろう」
臨也の肉茎にゆっくりと刺し貫かれ帝人は仰け反る。
「君は思い知るべきだね。俺には君に印を刻む権利があるんだよ」
奥まで入れられ突き上げられ揺さぶられる。
「好きでも嫌いでもどっちでもいいよ。帝人くん」
激しい突き上げに耐えかねて帝人は縋るように臨也の肩につかまる。臨也はその耳元に口を寄せ囁く。
「でも俺を俺と同じくらい意識しなきゃ許さない」

END

 

習作 静雄編(R18)

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静雄編
帝人の身体に静雄の剛直が挿入されている。震える身体に静雄の太く長いものが咥えさせられている。この俺がセックスするなんてな。人の身体に俺の身体を入れるなんて。壊してしまいそうだ。だが押さえがきかなかった。
「いてぇか?」
帝人は喘ぎうなづく。
「すまねえな」
静雄はさらに腰を動かし始める。じわじわと腰を進め血管の浮いた肉棒を帝人の肛門に埋め込んでゆく。静雄は締め付けられる快感に低く呻く。
「ああぅ」
帝人は身を捩るも鍛えられた静雄の身体はびくともしない。細身の身体は静雄の逞しい身体に組みしかれ深々と貫かれてゆく。まるで野生の獣が獲物を蹂躙するように。

街中で時折会うと話しかけてくる帝人に静雄は問う。
「お前は俺が怖くねえのか」
「怖くないですよ」柔らかく笑って返す帝人。「こわいんですか」
まるで静雄がそう問われているような気がする。夕方、学校帰りの時間に静雄は何となく帝人を待つようになる。いつも来るわけではない。会えると気分が高揚する。
「お前明日来るか?」
「え?」
「この辺でいるからよ」
「いいんですか」
静雄は約束を取り付けた自分に気づく。こんな風に帝人と話しているとまるで自分も普通なんじゃないかと錯覚しそうになる。心地よいと思う。
「触っていいですか?」
ベンチに座り奢ったジュースを飲んでいた帝人が突然言う。
「その、腕に」
「ああ、構わねえよ」
腕を触られくすぐったい。
「硬いですね」
「俺も触っていいか?」
「いいですけど俺のなんて」
静雄は帝人の腕に触れる。掴むと細くて折れそうだと思う。直に触りてえ。そう思ってたら頬に触れていた。
「静雄さん?」
「ああ、わりい」
唇に触れてえ。そう思った自分に驚く。静雄は煙草を吸いながら帝人の唇から目が離せなくなる。

学校帰りのささやかな道草。単身池袋に来て周りに学校と友達しか接することの毎日の中で。どこかほっとしている自分がいる。話していると普通の大人の男の人だ。帝人はどこか嬉しい。惹かれてやまない非日常を捕まえたように感じているのかも知れない。

突然の大雨、静雄は近くだからと自分の部屋に帝人を誘う。
「服、乾かしていけよ」
「はい、すいません」
帝人はびしょ濡れのブレザーを脱ぐ。ワイシャツも濡れて帝人の身体に張り付いている。ボタンが外され帝人の肌が露わになる。自分もワイシャツを脱ぎ始めながら静雄は帝人の身体を見つめる。下半身が熱くなり勃起の感覚を覚える。
「乾燥機にかけるから服よこせ」
振り切るように部屋を出る。やべえ。動悸が止まらない。高校生だぞあいつは。戻ると帝人は床に座っており静雄の身体を見てびっくりする。
「身体すごいですね」
「触ってみるか」
軽い気持ちで答える。だが自分に触れる帝人の手が熱い。腕に胸に触れる帝人の手。生木のような瑞々しい帝人の肌。
「やっぱり筋肉すごいです。静雄さん?」
直に触れたら俺は。静雄は帝人の肩に触れ胸に触れ背中に腕を回し抱きしめる。触れ合う身体が熱い。静雄は帝人の頬に触れ顎を掴んで上を向かせる。
「ここも触りてえ」
「どうぞ?」
静雄は帝人の唇を自分の唇で塞ぐ。驚く帝人の口内に舌を入れて貪る。帝人の舌を絡めとり食むように深くする。苦しがり胸を叩く帝人。一度唇を離すが一息つくとまたキスをして口腔を貪る。帝人は後ずさろうとするが後ろのソファに阻まれる。首を振っても逃れられない。帝人は自分が捕まったのだと知る。ズルズルとソファから滑り床に頭がつく。離れた帝人の唇を静雄は追いまたキスを続ける。静雄はやっと唇を離す。身体の下の帝人が荒い呼吸を繰り返している。馬乗りになっている静雄の目が爛々と輝いている。静雄は帝人の上に屈み込み首筋を吸い痕をつけていく。
「静雄さん、静雄さん」
「竜ヶ峰、どうもやべえわ」帝人の下着を脱がし静雄は言う。帝人はいつもと違う低い声に動揺し逃れようともがくがその脚を静雄は掴む。びくともしない。
「こんなつもりじゃなかった。でも、もう」
静雄は苦しげにしかし欲望に燃える瞳で帝人を見つめる。
「暴れんな。お前を壊したくねえ」
静雄は帝人の足を大きく開かせ隠された部分を露わにする。その間に身体を入れると帝人の身体にキスして吸いつく。いくつも所有痕をつけていく。乳首を舌で転がし舐める。下半身に顔を埋め帝人の陰茎を舐める。
「静雄さん、やめて」
上ずった声で帝人は抗議する。静雄は陰茎を咥え扱きながら刺激する。
「やだ、いや」
帝人の喘ぎまじりの声が耳に心地よい。帝人は小さく悲鳴を上げて静雄の口内に果てる。静雄は帝人の迸りを手のひらに吐き出して帝人に見せる。
「いや、じゃねえよな」
「静雄さん、どうして」
「わかんねえ、でも欲しくてたまんねえ」
静雄は自分も下着を抜ぐ。全裸になった静雄の逞しい身体に息を呑む帝人。これから自分を犯そうとする身体に一瞬魅せられる。そそり立つ屹立を見て我に返り、ずり上がる帝人の腰を静雄は片手で押さえる。
「静雄さん無理です」
「男同士はここに入れるんだぜ。竜ヶ峰」
「知ってます。無理です、いや」
静雄は帝人のもので濡れた指を肛門にこじいれる。
「わりい。柔らかくしてやるからよ」
こね回す内に指を3本奥まで咥えこむほどにほぐれる。深く出し入れし指を捻じり込む。「もういいか」
いつ終わるとなく嬲られ朦朧とした瞳の帝人の耳元に話しかける。
「馬鹿なことしてるってわかってんだ」苦しげな声で囁く。「でもどうしても俺はお前が欲しいんだ」
静雄は帝人の脚を開き入れていた指を抜き、帝人の迸りを塗りつけた亀頭を押し当てぐいっと突き入れる。中にぬるりと押し入られ帝人は息を呑み仰け反る。
「そんな、静雄さん」亀頭はごりごりと中を擦りながら入り口を広げる。
「いや、だ」
帝人は信じられないほどの圧迫感に身悶えする。静雄が腰を前後に振ると亀頭の括れから肉の幹も挿入され中を押し広げてゆく。静雄は気持ちよさにはあっと吐息を吐く。こんなにも満たされるのか。陰茎を体内の異物として締め上げる帝人の熱い肉はかえって快感を静雄に与える。陰茎を埋めては抜きまた埋める。
「静雄さ、は、あう」
帝人の喘ぎ声に静雄はぺニスが帝人の前立腺を掠めたと感づく
「ここか、竜ヶ峰」
「いや、いやです。そこやめてください」
何度も突くと帝人が過ぎる快感に涙を流す。
「お前も気持ちよくなって欲しいんだ」
帝人の陰茎が立ち上がる。静雄は帝人に覆いかぶさり引き締まった腹で帝人のものを擦りながら中を抉る
「そんな、いや」
陰茎と体内に同時に与えられる快感に帝人は喘ぐ。
「お前いい声で鳴くな」
静雄がふわりと笑う。静雄の腰の動きが早くなり中を激しく突き上げ行き来する。静雄は低く呻くと帝人の中で果て、腹の上で擦られた帝人のも同時に果てる。静雄はぺニスを根元まで接合部にぐっと押し付けると体内に迸りを余さず注ぎこむ。2人は荒い息をつき。静雄は帝人の上に身体を重ねる。
「竜ヶ峰。もっとしてえ。いや、するぞ」
帝人は慌てる。
「もう無理です」
「じゃあ明日か。明日来いよ。来なかったらお前の家に行く」
「行きます」
「そうか」
満面の笑みを浮かべる静雄に帝人は言葉をなくす。
「いやだったか」
「わかりません。想像もしてなくて」
憧れの存在の自分への情熱を心にも体にも刻みつけられた。蹂躙されたのに何故か恨む気持ちはない。自分が浅慮だったのだろうか。どうにかできたのだろうか。これからどうすれば。
「俺はお前を抱くぜ。これからも」
逡巡しているのを気づいたのか静雄が言う。
「初めてなんだ。こんなのは。止めようがねえ」静雄は身体を起こし帝人を見下ろす。「欲しくてしようがねえんだ。傷つけたくねえ」
低く苦しげな声。帝人は反射的に頷く。
「そうか」
静雄は照れたように笑い、帝人を抱きしめそっと力を込める。絡みつく鋼のような腕に帝人は思う。自分はいつか壊されるのだろうか。壊されないために頷いたのに。それでもいいか。考えるのは後にしようと帝人はのしかかる逞しい身体を抱き返す。

END

 

習作 青葉編(R18)

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「見つけた。帝人先輩」
 図書室の机に座っている帝人を見つけ青葉は明るく声をかける。帝人は顔を上げる。
「なんかあったの?」
「なにかなきゃいけないんですか?何もないですよ。一緒に帰りましょう」
「探したい本があるんだ。また今度ね」
「手伝いますよ」
 帝人は青葉を見上げ立ち上がると書架の方に向かい歩き出す。その後を青葉はついてゆく。部屋に二人の靴音が響く。他に誰もいない。青葉は帝人に追いつき腕を掴み書架の奥の壁に押し付ける。
「青葉君?何?」
 訝しげな声に笑って答える。
「探し物なんかないんでしょう。俺を避けてるだけだ」
「君を避ける理由なんてないよ」
「俺が好きだって言ってからずっとそうじゃないですか」
 帝人は青葉を見つめる。
「困ったなあとは思ってるけどね。僕には何もしようがないし」
 青葉は苦笑する。それが答えなのか。
「じゃあ、先輩。いいですよね」
 低い声でつぶやくと帝人の身体を抱きしめ噛みつくようなキスする。抗う帝人を身体で押さえつけ。呼吸を奪うようなキスを続ける。

 放課後の図書室。翻る白いカーテン。静謐な空間に水音が響く。青葉は本棚の奥に帝人を追い詰め、かがんで口淫をしている。帝人は懸命に声を抑えるが喘ぎ声を抑えきれない。
「青葉くん、もうやめてよ」
 自分が帝人をこんな風に乱れさせていると思うとたまらない。もっともっと乱れさせたい。青葉は帝人のペニスを嬲りながら後ろの窄まりに指を滑らせる。
「何して、青葉くん」
「好きです、帝人先輩」
 青葉は帝人の中に指を入れる。するりと入る。
「あいつに慣らされたんですか」
 腹が立ちぐっと奥に指を突き入れる。帝人が眉を顰める。
「あ、君には関係ない」
「そうですか。でも今は先輩の側にいるのは俺だけだ」
 再び帝人のモノを咥えると後孔を掻き回すように弄りながらいかせる。帝人のモノが青葉の口の中で弾ける。その精液を手の平に吐き出し見せつけると、帝人は嫌な顔をする。その様に密かに歓喜する。
「悪趣味だね、君は」
「先輩、俺も欲しいです」
 青葉は帝人のズボンを脱がし片足を上げさせると慌てる帝人の両手を拘束する。
「俺も満足させてください」
 ベルトを取り前を寛ぐと屹立した青葉のペニスが現れる。青葉はペニスに帝人の精液を塗りつけて亀頭を帝人の後孔に当てるとぐっと挿入させる。
「先輩のここ、俺のを美味しそうに呑み込んでますよ」
「何言ってんだよ」
「もっと貴方を暴きたい」
 内壁を擦りながら熱い中を抉っていくと柔らかく締め付けられる。腰を振り身体を進めるとペニスが全て帝人の中に埋まり根元が触れ合う。
「先輩の中に俺がいますよ」
 無邪気に上気した顔で喜ぶ青葉。帝人は苦悶に少し快感を滲ませたようにみえる。青葉はゆっくりと屹立を出し挿れさせる。ペニスを突き上げては腰を引いて引き下ろしまた突き上げる。
「俺のが先輩の中に出たり入ったりしてますよ」
「君はおかしいよ」
「ええ、俺はおかしいんです。俺をおかしくしたのは先輩です」
 青葉は帝人の身体を抱きしめて 壁伝いに引き下ろすと繋げたまま帝人の上に乗り上げる。もう片方の脚も掴んで身体を開かせ激しく腰を揺らしペニスを帝人の中に行き来させる。
「先輩愛してます」
 一際奥に突き入れると青葉は帝人の中に欲望を注ぎ込む。
「先輩、先輩」
 ペニスを抜かずにうわ言のように呼ぶ。帝人を犯した。ずっと望んでいた。
「これ、強姦って言うんじゃないかな」落ち着いた帝人の声。「無駄なのに」
 なんとも思ってない声に泣きたくなる。無邪気で危うくて冷たい。そんなところに惹かれているけれど。
「意地悪ですね。先輩」正面から見つめる。「どうすれば俺を感じてくれるんですか」
 青葉のキスを帝人は拒まない。されるままの帝人に何度も唇を押し付け啄ばみ、口内の熱を求め深く貪る。惹かれるほどわかってしまう。 帝人は自分を少しも好きではない。帝人は周りの全てを壊しても自分すらも壊してもいいと。守りたいものに俺は入っていない。手の甲を貫いたボールペンの、あのひと突きで帝人は青葉を掌握したというのに。きっと何度その身を貫いても帝人は手に入らない。
「僕は君がすきだよ。かわいい後輩としてね」
 嘘ばっかりだ。わかってるのに。信じたくなる。

END

 

習作 正臣編(R18)

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 薄暗い部屋の中で正臣はやっと捕まえた帝人を組み敷いている。足を大きく開かせて間に正臣は覆い被さる。露わにした帝人の後孔に指を根元まで入れて出し挿れを繰り返す。指を3本に増やし捻じるように掻き回す。
「いや、正臣、なんで」
「やっとお前らしくなったな帝人」翻弄されて上気した帝人の顔が堪らない。取り澄ましたあの頃とも離れてから壊れた笑顔を浮かべる再会した時とも違う。俺が乱れさせているんだと正臣は 愉悦を感じる。柔らかくなった帝人の後孔はもう正臣を迎えられそうなくらい熟れている。濡るつく肉と指の擦れて起こる水音にこれは抱いていい身体だと錯覚しそうになる。
会うのが怖くて会いたくてたまらなかった。でも再会した帝人は変わっちまってた。壁に押し付ける身体は細っこいまま変わらないのに。帝人の壊れた笑顔に思わず正臣は腕を掴み駆け出し無理やり部屋に連れ込んだ。後ろ手に鍵をかけると帝人は訝しがった。
帝人、お前がどうしちまったのかわからねえけど」
正臣は自分のシャツのボタンを取りシャツを脱ぐ。鍛えられたしなやかな身体が露わになる。ズボンと下着を脱ぐと勃起したものが現れ、帝人が息を呑み後ずさる。
「俺はお前をどうするか決めてたんだよ」
帝人に大股で近づくと服を剥ぎとる。シャツを掴み破くと帝人は信じられないといった風に目を丸くする。お前は知らなかったよな、帝人。小さい頃からお前が好きだった。辛い想いをしていた時同じ高校に来てくれて嬉しかった。お前と再会して触れた身体に熱を分け合いたいと思った。小さい頃と違いその方法を知っちまったからだ。気持ちに気付いたけど言えねえ。でも離さないと決めたんだ。逃げんなよ、なあ、狭い部屋の中で逃げ切れるわけねえだろ。正臣は帝人の腕を捕まえ引き倒すと下着ごとズボンを剥ぎ取る。
「や、何?正臣」
正臣は帝人のペニスを掴むと扱き始める。抵抗しようとした腕を一纏めにする。立ち上がりはじめたそれを口に含むと帝人は慌てる。亀頭を舌で刺激し舐め続けると帝人は首を振って耐える。
「正臣、離れて、もう」
「いっちまえよ」
「やだ、離して」正臣の口内の帝人の先が弾ける。
「見ろよ、お前のだぜ」
正臣が吐き出して見せつけると脱力した帝人は顔を背ける。
「お前ん中に返すぜ」
「正臣?痛っ
」正臣は濡るつく指を帝人の窄まりに捩じ込む。暴れる帝人を押さえつけるとさらに深く入れる。
「こんなもんじゃねえんだ。こんなもんじゃ終わらねえぜ」

そうしてどのくらいの時間が経っただろう。
「正臣、もう」
帝人は弱々しく懇願する。正臣が指を抜くと帝人はほっとする。
「そうだな、もう俺のを挿れても大丈夫だよな」
「違うよ、あうっ」
正臣は亀頭を帝人の熟れた後孔に当てると膝を掴んで足を大きく開かせる。ぐっと腰を押し付けると性器をズッと一気に挿入する。帝人は悲鳴を上げる。
「全部入ったぜ、ほらよ」
正臣は拘束を解き帝人の手を取って繋がった部分を触らせる。帝人は信じられないという表情をする。
「な、お前俺に犯されてんだぜ」
正臣は身体を左右に揺すり中を擦る。帝人が喘ぎながら震える声で問う。
「なんで、正臣」
「お前がわからずやだからだよ」
「もう抜いて」
「いいぜ、帝人
正臣は身を引いてペニスを引き抜くと亀頭を入り口に食ませたまま止める。
「正臣?」
「なわけねえだろ」
正臣は帝人の腰を掴むと勢いよく腰を押し付けペニスを奥まで突き入れる。また引き抜き挿入する。
「いや、いやだ正臣」
「お前の身体は全然いやがってねえよ。ほら先っぽ残すと引っ張り込むんだぜ。」
正臣はそう言いながらギリギリまで抜き手を添え左右にペニスを振りながら捩じ込む。
「指も一緒にいけるんじゃねえか」
「いや、正臣、なんで」
正臣はペニスに人差し指を添えると帝人の体内に捻じ挿れてゆく。帝人は仰け反って喘ぐ。
「あ、う」
「辛いか、ここは柔らけえから大丈夫だよな」
捻じ込んだ指をペニスの周りに滑らせながら正臣は言う。
「いた、い、正臣」
帝人の瞳から一筋涙が流れる。正臣はにっと笑いその涙を舐めとる。
「お前を戴くぜ、帝人
正臣は指を引き抜き帝人の身体を抱きしめて身体を密着させる。ずっと熱を分け合いたいと願っていた。こんな形で叶うなんて。でも、もう止まれない。正臣はペニスをゆっくり行き来させ徐々に腰を強く振り、中を深く浅く擦り続ける。帝人は快感とも苦痛ともつかない嬌声をあげる。正臣はキスをしてその口を塞ぐ。初めての口付けがこんな風になるなんて。正臣は本能のままに舌を入れ逃げる帝人の舌を捉えて摺り合わせ口内を貪る。帝人の身体の下から上から貪る。帝人の中の浅めの感じる場所を細かく亀頭で擦り、深く入れるときは亀頭が抜けそうなほど身を引いてから強く衝き上げる。
「そろそろ俺も限界」深く入れながら動きを早くすると帝人も気づき正臣を見つめて言う。
「俺の中でいくの?」
「ああ、嫌だって言ってもやめねえ」
「そんなことしたら戻れないよ」
「戻るつもりなんてねえよ」
正臣はズッと深く挿入すると低く呻き断続的に帝人の中に吐精する。
帝人帝人
荒く息をつきながら譫言のように言葉を紡ぐ正臣を抱きしめて帝人は言う。
「戻れるよ、正臣。俺がそうする」
虚空に話しかけるような帝人の声。正臣は帝人の名を呼びながら悲しげに目を瞑る。

END