SS ヒロアカ
prologue 河原に行こうとかっちゃんが言った。 靴を脱いで躊躇なく川に入ってゆくかっちゃんに、自分も仲間たちも、たもを持ってついて行った。 水位は深いところでも膝までしかない浅瀬。水に浸した足がひんやりとして気持ち良かった。 かっちゃんはひょい…
Chapter・1 始めてキスをしたのは13歳の夏休み明け。その日の放課後は、くすんだ水色の空に、水母のように透けた半月がぽうっと浮かんでいた。 誰かに呼び止められた気がして、出久は足を止めた。よく知っている声だった。心を揺さぶられる声だった。校庭を…
Chapter・1 始めてキスをしたのは13歳の夏休み明け。その日の放課後は、くすんだ水色の空に、水母のように透けた半月がぽうっと浮かんでいた。 誰かに呼び止められた気がして、出久は足を止めた。よく知っている声だった。心を揺さぶられる声だった。校庭を…
「勝己、いずくくんが来たよ!」 玄関に出たのはかっちゃんのお母さんだ。雰囲気がよく似てる。でもそう言うとかっちゃんはすごく怒る。 「おお、上がれや。デク」 リビングに繋がるドアの向こうから、声だけ飛んできた。かっちゃんのお母さんに続いて部屋に…
prologue 「てめえ!ざけんなよ!」勝己は吼えた。足元から振動が響いてくる。崩れかけて瓦礫が散乱するビルの最上階。衝撃による振動で、天井がいつ崩落してもおかしくない。砂塵が舞い散る部屋の中に天井に開いた穴から光が差し込み、緑色のパーカーと特徴…
prologue 「てめえ!ざけんなよ!」勝己は吼えた。足元から振動が響いてくる。崩れかけて瓦礫が散乱するビルの最上階。衝撃による振動で、天井がいつ崩落してもおかしくない。砂塵が舞い散る部屋の中に天井に開いた穴から光が差し込み、緑色のパーカーと特徴…
もはや見えぬ光よかつて私のものだった光よもう一度私を照らしてくれ……やっとたどり着いた人生は始まったところで終わるのだ ピエル・パオロ・パゾリーニ 「アポロンの地獄」より 壁面時計の長針と短針がカチリと重なる。 時は正午、12時ジャストだ。 晴れた…
prologue Dreams あれは出久だ 中学生の時の冴えない出久だ おどおどして卑屈で、なのに反抗的で身の程知らずな幼馴染 手を伸ばして、細い腕をつかむ。出久は振り返る。目を見開き驚きの表情を浮かべて。 デク、デク。 俺は声をかける。俺は何を言うつもりだ…
prologue Dreams あれは出久だ 中学生の時の冴えない出久だ おどおどして卑屈で、なのに反抗的で身の程知らずな幼馴染 手を伸ばして、細い腕をつかむ。出久は振り返る。目を見開き驚きの表情を浮かべて。 デク、デク。 俺は声をかける。俺は何を言うつもりだ…
爆殺王:おい、クソデクには付き合ってる奴はいねえんだな 切島:今んとこあいつに彼女いるとかいう話は聞いたことねえよ 爆殺王:は!だろうよ! 切島:で、お前はどうなんだよ 爆殺王:ああ?クソデクにいねえのに、んな浮ついたことしてられっかよ 切島:それっ…
爆殺王:おい、クソデクには付き合ってる奴はいねえんだな 切島:今んとこあいつに彼女いるとかいう話は聞いたことねえよ 爆殺王:は!だろうよ! 切島:で、お前はどうなんだよ 爆殺王:ああ?クソデクにいねえのに、んな浮ついたことしてられっかよ 切島:それっ…
序章 光り射す林の中を少年は駆ける。 胸を高鳴らせ、息を弾ませて。 彼はもう来てるだろうか。 少年は期待に胸を膨らませる。 木陰を抜けた先に見えるのは高原。空の青と地の緑に二分割され、鮮やかに目映く開ける。広がる草原は一面に腰の高さほどの草に覆…
序章 光り射す林の中を少年は駆ける。 胸を高鳴らせ、息を弾ませて。 彼はもう来てるだろうか。 少年は期待に胸を膨らませる。 木陰を抜けた先に見えるのは高原。空の青と地の緑に二分割され、鮮やかに目映く開ける。広がる草原は一面に腰の高さほどの草に覆…
「疲れたよ、かっちゃん」 ふうふうと息を弾ませて、僕は前を歩くかっちゃんに呼びかける。 裏山を流れる川の上流に遡って、随分と歩いてきた気がする。 鶺鴒だろうか。川面をついっと滑るように飛んでいる。 セキレイ。イザナミとイザナギが、尾を振るの見…
1・かの日の怪物 久方ぶりの自宅への帰り道のことだった。 出久は膝に抱えていたリュックを担ぐと、電車を降りた。 黄昏の空に烏の鳴き声が遠く響く。家々のシルエットを、夕焼けが橙色に縁取っている。落陽は出久のすぐ前を歩く、幼馴染の小麦色の髪も、紅…
1・かの日の怪物 久方ぶりの自宅への帰り道のことだった。 出久は膝に抱えていたリュックを担ぐと、電車を降りた。 黄昏の空に烏の鳴き声が遠く響く。家々のシルエットを、夕焼けが橙色に縁取っている。落陽は出久のすぐ前を歩く、幼馴染の小麦色の髪も、紅…
序章 「かっちゃん、あれ何だろ」 幼い頃、ふたりで林の中に遊びに行った時だ。後ろを歩いていた出久が言った。 ふらふら余所見をしているから、ついてくるのが遅れて、待ってよかっちゃん、と追いかけてくるのが常だった。この日は2人だけだから、歩くペー…
序章 「かっちゃん、あれ何だろ」 幼い頃、ふたりで林の中に遊びに行った時だ。後ろを歩いていた出久が言った。 ふらふら余所見をしているから、ついてくるのが遅れて、待ってよかっちゃん、と追いかけてくるのが常だった。この日は2人だけだから、歩くペー…
後篇 4 勝己は扉のノブに手をかけてはたと止まった。 密やかな声に耳を澄ます。出久の声だ。 眠っている自分にこっそり語りかけている。くしゃくしゃだとかトゲトゲだとか。聞いたことのないような優しい口調で。部屋に入れば何かを壊してしまいそうだ。掌…
後篇 4 勝己は扉のノブに手をかけてはたと止まった。 密やかな声に耳を澄ます。出久の声だ。 眠っている自分にこっそり語りかけている。くしゃくしゃだとかトゲトゲだとか。聞いたことのないような優しい口調で。部屋に入れば何かを壊してしまいそうだ。掌…
前編 序章 破裂音と閃光。 掌を発火させた勝己の身体が宙に浮き、出久の眼の前を跳んでいく。 爆音が木々を縫って遠く木霊する。「待ってよ、かっちゃん」 出久は息を切らせて勝己に続いて跳躍した。 山道を登るほどに急斜面になる。駆けるより跳ぶ方が早い…
繁華街からひとつ角を曲がると街は影を纏うようだ。 喧騒から遠ざかり曲がりくねった狭い坂道を登った。街灯が疎らになり、別の世界であるかのように闇が濃くなる。 魔物が潜んでいるようだ、と思う。後ろをついてくる戸惑う足取り。勝己は振り返り、足音の…
prologue 「すごいなあ、かっちゃん」 そう無邪気に話しかけてくる柔らかく高い声。 振り向くと俺の後ろを小柄な子供が後を付いて来ているのが見える。よたよたした転びそうな足取り。少しスピードを落して歩みを合わせてやる。 ここはよく遊んだ裏山の森だ…
prologue 「すごいなあ、かっちゃん」 そう無邪気に話しかけてくる柔らかく高い声。 振り向くと俺の後ろを小柄な子供が後を付いて来ているのが見える。よたよたした転びそうな足取り。少しスピードを落して歩みを合わせてやる。 ここはよく遊んだ裏山の森だ…
キスをしている。 目を瞑ると、人肌の柔い温もりがふわりと唇を撫でる。少しかさついた唇が形をなぞるように這い、押し付けられた。ちゅっと音を立てて温もりが離れ、また押し付けられる。粘膜が触れ合い、またちゅっちゅっと音がする。上唇を食まれ下唇を弄…
落ちる。 青葉の茂る木の枝が足元から離れていく。 眼前に青い空が見えた。 木漏れ日を背にして勝己の姿が逆光になっている。焦燥した表情を顔に浮かべているようだ。出久の腕を捕まえようとこちらに手を伸ばしている。だが子供の手では届かない。 こんな高…
キスをしている。 目を瞑ると、人肌の柔い温もりがふわりと唇を撫でる。少しかさついた唇が形をなぞるように這い、押し付けられた。ちゅっと音を立てて温もりが離れ、また押し付けられる。粘膜が触れ合い、またちゅっちゅっと音がする。上唇を食まれ下唇を弄…
序 母親に怒号を背にして、勝己は家を飛び出した。 心の中で悪態をつく。 うぜえ、ほんっとにうぜえ。飯食う時の姿勢が悪いから始まって、口が悪い態度が悪いとハハオヤはくだらないことでガミガミ叱りやがるし、オヤジはいつもオロオロしてるだけで最終的に…
母親に怒号を背にして、勝己は家を飛び出した。 心の中で悪態をつく。 うぜえ、ほんっとにうぜえ。飯食う時の姿勢が悪いから始まって、口が悪い態度が悪いとハハオヤはくだらないことでガミガミ叱りやがるし、オヤジはいつもオロオロしてるだけで最終的には…
有頂天だった。誰よりもいい個性が発現したのだ。 力をひけらかしたくてしょうがなかった。それに水を差すのはいつも出久だ。また遊んでやってた奴を庇って俺を非難しやがる。「やめなよ。かっちゃん」「どけよデク。そいつがヴィラン役だろうが」「遊んでる…