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金星の光(全年齢バージョン)

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左右に押さえつけた比企谷の腕を一纏めにする。片手で容易く押さえつけられるなんて、日頃の運動が足りないだろう。空いている方の片手でシャツのボタンを外してゆく。
唇を合わせ比企谷の口を開けさせて舌を差し入れる。舌を探り当て絡ませ口内を貪る。深いキスをしながら覆い被さり肌けた身体を密着させる。組み敷いた身体の体温と鼓動を感じる。
「はや…」
喘ぎ声混じりの比企谷の声。葉山か、それとも隼人と呼んでくれるのか。だが言葉はそこで途切れてしまう。
「ひき、がや」
声が上ずる。上目づかいに俺を睨み付ける比企谷に息を呑む。上気した頬に涙ぐんだ瞳に喘ぐような息遣い。
「いや、だ」
比企谷が引き攣ったような声を上げる。
「葉山、もう」俺の名を呼ぶ比企谷の声が耳を擽る。
わかってるだろう?君と俺は同じなんだ。


階段を上り屋上へのドアを開けるとその先に比企谷がいる。抜けるような紺碧の空の下。張り巡らされた金網に指を掛けて佇んでいる。名を呼ぶと振り返って俺を見る。冷ややかな瞳に挑みたいと一歩進む。
また同じ夢を見た。彼に辿り着くことのないそんな夢を見て、目が醒めるといつも堪らなく寂しくなる。現実では手を伸ばしたくて伸ばせなくて。自分がどんなに彼を求めているのか思い知らされるからだ。

葉山は教室の反対側にいる比企谷を見つめる。だるそうに頬杖をついて授業を受ける姿に何度も目をやり、その度心の中で話しかける。
君が嫌いだ。
捻くれて頑なな君が
俺には出来ないことをやってのける君が
君に対しては俺は平静でいられない。
装うことができない
自分を押さえられない
隠しているものを暴かれる
俺の嫌な部分ばかり思い知らされる。
俺はもっとマシな人間だと思いたいのに。
エゴイストで偽善者だと見抜かれてるようで
なのに君から目が離せない。
人からどう思われても構わないと
他人も自分も傷つける君を見ると辛くなる
いつも君のことばかり考えてしまう。
仲良くなれないと言ったけれど
仲良くはしてくれないのは君だろう。
受け入れてくれないとわかってるのに
相容れないとわかっているのに
見つめるだけで苦しくなるのに
なのに俺はどうして君が欲しいんだ。
君だけをどうしてこんなにも。
こんなのは俺じゃない。
孤高のその姿は遠く。切り取られたように鮮やかに映る。君をわかりたい。分かりあいたいたい。君を知ればこんな迷いはなくなるだろうか。

休み時間になり葉山は机に突っ伏した比企谷のところに足をむける。人の気配を察して億劫そうに比企谷が顔を上げる。
「相談があるんだ」
「依頼かよ?今忙しいんだけど」
「暇にしか見えないけどね」
訝しげな表情を浮かべながら比企谷は葉山についてくる。人気のない階段下に来ると葉山はこれから毎日放課後付き合って欲しいと頼む。比企谷は眉を顰める。思った通りの反応だな。でも引くわけにはいかない。
「はあ?なんで俺が」
「試してみないか。俺は君と何らかの関係が欲しい。」
「なんで俺がそんなのに付き合わなきゃいけないだよ」
「期間限定だ。そうだな。中間試験の終わりまでならどうだ」
「俺になんかメリットあんのか」
「依頼だと思ってくれていい。何の関係も生まれないならそれはそれでいい。もう君にそんな頼みはしない」
「お前にも何にもメリットないだろ」
「俺は、はっきりさせたいんだ」
葉山の押しの強さに比企谷は折れる。
「わかった。期間限定だな。そこは守れよ」
「すまないな。じゃあ、放課後自転車置き場で待っててくれ」
「今日からかよ!?」
驚く比企谷に念を押す。
「放課後、絶対いてくれよ」

「で、何がしたいんだ?」
自転車を押して連れ立って歩きながら比企谷が訊く。
「君の家に行きたい」
そうい言うと比企谷は顔を顰める。
「えー。ちょっと嫌かな。初めて家に来るのがお前ってのは」
「なら尚更家がいいな。頼むよ」
比企谷の家に着き彼に続いて家に上がろうとすると玄関先で止められる。
「ちょっと待ってろよ」
リビングに通じるドアの向こうからバタバタと音がする。暫くして比企谷が出てくる。
「待たせたな。上がれ」
「あ、ああ」
葉山にリビングのソファを指し示すと比企谷はまた出て行く。二階でバタバタと音がする。葉山はいきなり来たのは悪かったかなとちょっとだけ反省する。気を使わなくてもいいのにな。だが機を逃したくなかった。それに慌てる比企谷という珍しいものを見れたのは悪くない。
「小町が帰るまでならリビングでもいいけどどうする?」
「君の部屋がいいな」
比企谷の案内で階段を上がる。
「葉山、何がおかしいんだ?」
一体どこを片付けたのか雑然とした部屋に吹き出してしまう。比企谷はありありと不機嫌になる。

その日から放課後の付き合いが始まった。2人は待ち合わせて共に帰ることになった。
翌日葉山は比企谷を家に誘う。渋る比企谷の自転車を掴んで家に引きずってゆく。リビングを素通りして自分の部屋に通すと比企谷は目を丸くする。
「人が住んでる部屋にみえないぞ。モデルハウスかよ」
整然とした部屋を見て居心地悪そうにしながら比企谷は言う。
「褒めてるんだよね?いつもこんなもんだよ」
リア充はいつでも人が呼べるように片付けてんだな」
「外で遊ぶ方が多いしそんなに家に呼ばないよ」
「お前の部屋見たし帰っていいか?」
「何言ってんだよ!?」
葉山は慌てて立ち上がりかける比企谷を押し留める。
「だって、何もねえじゃんこの部屋」
「本もゲームもあるよクローゼットに」
そう言いながらクローゼットを開ける。葉山に顔を寄せるように覗き込んだ比企谷が感嘆の声を上げる。
「すげー、収納すげー。なんで隠してんだ」
「だから片付けてるんだって」
そう言い返しながら確かに最近は手に取ることもなくなったなと葉山は思う。頬にさらっと比企谷の髪が触れる。顔が近い。手に届くところにいつもあればいいのか。
「比企谷の好きそうなのはあるか?いつも出しておくよ」
比企谷の選んだ対戦ゲームをしながら葉山は比企谷に言う。
「君に対しては皆本音で話すんだよな」
「気を使わなくていいって思ってるだけだろ」
「羨ましいよ」
「本音で話さない奴に誰も本音で話さねえよ」比企谷が画面から目を離して葉山の方を向く。「でもお前はその方がいいんだろ。ほんとはそこを羨ましくなんてねえだろ」
比企谷は葉山を見つめて言う。葉山は違うと言えない。自分を晒してまで皆の本音を聞きたいわけじゃないし聞いたところで受け止める気はないのだ。
「その通りだよ」そう答える。「でも羨ましいのは本当だよ」
「お前、そうじゃなくてさ、なんか言い返せよな。俺だって本音なんて吐かねえよ」
そう言いながら本音を聞いた比企谷は全部受け止めてしまうのだ。

比企谷は葉山の部活の終わる頃に自転車置き場で待ち、比企谷が部活の時は葉山が待つ。葉山が時折窓を見上げるとグラウンドを眺めている比企谷がいる。待っててくれていると思うと葉山の胸に何か温かいものが満ちる。比企谷の部屋に行ったり葉山の家に連れて来たり家を行き来する毎日が当たり前になってくる。初めの頃は部屋に人がいるのが落ち着かない様子で挙動不審だった比企谷も段々葉山に気を使わなくなる。比企谷との本を読んだりゲームをしたりするのんびりした時間が楽しくなる。ふと寝っころがり本を読む比企谷を見つめる。寛いでいる姿を見ると学校でだらっとしているのも気を張っているのだと感じる。伏せ目だと端正な顔立ちがよくわかるなとじっと見つめる。顔を上げた彼と目があう。
「葉山、こういうのでいいのか?」
「ああ、楽しい」
「そうか?よくわからないなお前」
寝転ぶ比企谷の側ににじり寄る。
「キスとかしても楽しいかも」
「俺は嫌だ」
「怖い?したことないだろ」
「そうだよ、ねえよ。悪いかよ」
「試してみるかい」
比企谷を仰向けに転がし上に跨る。屈み込み人差し指で比企谷の唇に触れてみる。少しかさついて柔らかい。唇を舐めて湿らせてみたい。顔を背けられ指が離れる。
「初めてがお前とか、ぜってえやだ」
「つれないな」
「重いからどけよな」
「どかしてみればいいだろ」
葉山は体重を掛けて比企谷の身体を抑え込む。比企谷は覆い被さる体躯を押しのけようともがいて腕を突っぱるが逃れられない。諦めたのか抵抗が止む。
「このままでいいんだ?」
「これだから体育会系は嫌なんだ。どうすりゃどいてくれんの」
「キスしてみようよ」
「お前な。もうこのままでいいわ」
比企谷は呆れたように言い、抑えられた態勢のまま本を読み始める。葉山は苦笑して比企谷の肩口に顔を伏せる。こんな近くに比企谷を感じるのは初めてだ。シャツ越しに温もりを感じる。鼓動が重なる。

中間試験中は部活が休みになる。外に遊びに出ようと提案すると思ったとおり比企谷は渋る。
「お前と一緒とかぜってえねえよ。誰かに見られるだろ」
「別に困ることないだろ」
「お前はそうでも俺は目立ちたくねえの」
「ならこの辺じゃなければいいだろ」
仕方なく比企谷が折れ電車に乗って隣町に行く。駅を降りて街中をただ気まぐれに歩くだけ。でも隣に比企谷がいる。それだけで心が浮き立つ。
「どこに行きたい?」
「帰りたいんだけど。どこだよここ」
葉山は比企谷の手を掴んで歩きだす。
「おい、手」
「繋がないと人に流されるだろ」
人混みの中で迷わないようにとそう思って繋いだけれど、どさくさに掴んだ比企谷の手の平はじわりと温かい。通りに出てから離されそうになった掌をぎゅっと握り直す。大型書店に通りがかりに入ってみる。はじめはだるそうにつきあっていた比企谷だが書店には興味を示す。めいめい好きなコーナーに別れる。気に入ったらしい本を購入しているところを葉山に見られ比企谷はバツの悪そうな顔をする。
「来て良かったんじゃないか」
「別に家の近くの本屋でも買えたけどな」
本の入った袋を抱えて比企谷はぼそぼそと言う。
ゲームセンターにも立ち寄る。家にもあると言う比企谷を宥め対戦ゲームをすると意外なほど熱くなる。昼過ぎになりファーストフードの店に立ち寄る。バーガーと飲み物を持ち帰りで頼むと比企谷が尋ねる。
「お前、食わねえの?」
「近くに公園があるからそこでいっしょに食べよう」
喧騒を離れ公園の噴水の前のベンチに並んで座る。バーガーを食べながら言う。
「たまには外出もいいだろ」
「たまーにはな」
拗ねたような物言いに葉山は微笑む。夕暮れになり帰りの電車に乗る。疲れさせてしまったのか葉山の肩に頭を持たせかけて比企谷は寝てしまう。意外に柔らかい髪の毛。寄せられた体温。鼓動が高鳴り聞こえてしまうのではないかと思う。遠く感じた存在が側にいる。すぐに触れられる距離に。ほうっとため息をつく。起こさないようにそっと比企谷の手を握る。

中間試験が終わっても葉山は自転車置き場で比企谷を待つ。約束のことは忘れたふりをして言い出さない。比企谷は首を傾げるがそのまま連れ立って帰る。家に寄ってもいいかと言うと比企谷は伺うような表情を浮かべるがいいと答える。だがある日葉山の家に寄らないかと言うと比企谷が首を振る。
「もう終わりだろ?」
「まだだよ。はっきりさせたいって言っただろ」
「お前、まだわかんねえの?」
「俺がわかるまで付き合う約束だろ」
比企谷が息を呑む。
「いつ終わるんだよ」
「いつって。俺は、俺は終わりたくない」
君との間の壁がなくなって嬉しかった。側にいて今まで知らなかった一面を見てもっと知りたくなった。それまで君を見て苛々していたその理由を自覚してしまった。一緒に過ごす時間はもはやなくてはならないものとなってしまった。それなのに。
「俺は終わらないと困るんだよ」
「なにが困るんだ。楽しくなかったのか」
「そうじゃない。そうじゃなくて。きりがないだろ」
「ずっとじゃダメか」
「ずっとなんて無理に決まってるだろ」比企谷が怒鳴る。
「いつ終わるんだ、まだかよって。考えながら付き合うのしんどいんだ。もう解放してくれよ」
弱々しく俯く比企谷の姿に葉山は愕然とする。
そうか。君には何の意味もなかったのか。俺は続けようとしていたのに。このまま続けられると思っていたのに。君は終わりを見ながら付き合っていたのか。結局俺は君にとっては関わりたくない人間だということか。
心の中がザラリとする。
「終わりにしてもいい。でも条件があるよ」葉山は比企谷の顎を掴み顔を上げさせる。「依頼なんだ。最後まで付き合えよ」

「約束だろう。比企谷」
葉山は部屋の鍵を締める。自宅には今2人だけしかいない。念のため。彼を閉じ込めるためだ。
「わかってる」
比企谷は唾を飲み込むと服を脱ぎ始める。葉山も服を脱ぎ手早く全裸になる。葉山の鍛えられた身体を見て比企谷は躊躇するが意を決したように下着を脱ぐ。比企谷はベッドにうつ伏せになり顔を枕に押し付ける。葉山が比企谷の肩に触れると身体がびくりと震える。怖いのか。だろうな。だからと言って今更止めてやれないけどな。
俺は君の心には何も残せなかった。だからせめて君を奪って壊して。この身体の中に俺の身体が存在した痕跡を残すと。

昼休みに葉山は一人屋上に登ると空を見上げる。寝転びながら葉山は昨日の比企谷の乱れた様を思い起こす。この手で抱いてこの身体で犯した。何度も何度も。
確かに手に入れた。そう感じた。
本当にあの1回だけなのか。もう抱けないのか。彼も感じていたように見えたのに。俺は忘れられるのか。欲しくてたまらなかった彼に触れて。彼を知って忘れられるのか。抱く前より膨れ上がってしまった想いに灼かれそうになる。比企谷。君はどうなんだ。
葉山は起き上がると比企谷を探す。授業中は席にいるのに休み時間になると比企谷は葉山を避けるように姿を隠してしまう。1人になりたいなら屋上かと思ったのになかなか見つからない。旧校舎の屋上だろうか。階段を駆け上がり扉を開ける。案の定求めていた姿を見つける。比企谷は金網越しに下を見ている。紺碧の空から金網で区切られ一人閉じこめられているように見える。葉山は一歩踏み出す。
「比企谷」
びくりと大きく比企谷の身体が震えるのが見える。だが振り返ったその表情はいつものふてぶてしさを装う。
「何だよ」
葉山が近づくと比企谷は後退りして距離を保とうとするがすぐ後ろの金網に後退を阻まれる。
「君は平気なのか?」
「何が」
「俺とセックスしただろう」
「何だよ。もうそれで終わりのはずだろ」
「忘れられるのか?俺に抱かれたこと」
「やめろよ」
比企谷の表情が変わる。葉山の言葉に動揺している。余裕のないこんな比企谷は初めて見る。歩を進めながら葉山はさらに容赦なく言う。
「忘れられないんだろう?だから避けるんだ」
「避けてねえ」
「俺は忘れられない。一層君が欲しくなった」
比企谷は葉山を睨みつける。
「約束破るのかよ」
「破るよ。君がそうなら守る意味もない」
葉山は足早に近寄り比企谷の退路を断つように追い詰める。出遅れた比企谷は後退る。今彼を逃すわけにはいかない。金網に手を掛けて囲い込み逃げ場を奪う。
「君は俺を忘れられない」
葉山は身体を押し返そうとする比企谷の片手を掴む。触れた手首が熱い。比企谷の身体が震えている。怯えているのは俺になのか。それとも。葉山は確信する。やっと君を捕まえた。
「俺を見て思い出さずにはいられないはずだ」
「やめろよ」
「君の身体にキスして。君の中に入れた」
「葉山、頼むからやめてくれ」
「君の身体は俺を覚えてる」
比企谷は俯くと囁くような小さな声で言う。
「こんなのわかんねえ。解放されると思ってたのに」
「比企谷」
「なんで終わったのにお前の顔を見るたびにお前とのセックス思い出すんだよ」
「俺もだよ。同じだ」
「同じじゃない。お前は慣れてるだろうけど俺は違う」
「俺は君が好きだ。君も俺が」
「違う。なんでそうなるんだよ」
「そうなるよ。俺と同じように」
「初めてだからだろ。お前なんかが初めてなんて」
比企谷はそう言うと顔を上げる。揺れる瞳に吸い寄せられるように、葉山はさらに一歩詰め寄る。
「こんなのは俺じゃない」
そう言いながら逃げようとする比企谷の両肩を掴む。細い肩に指が食い込む。
「でも戻れないよ。もう君じゃない君と付き合ってくしかないんだ」
「放せよ。頼むから」
比企谷は震える声で言う。瞳に怯えた色が見える。触れた掌から伝わる強張った身体の感触と体温。
「俺と同じなんだ」
葉山は捕まえた身体を引き寄せると腕を回しきつく抱きしめる。

END