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習作・人形遊戯(R18)

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 勝己は車の後部座席のドアを開け、抱えていたズシリと重い人形を座席に積んだ。
グズグズしちゃいられない。急がなければ。運転席に移動してエンジンをかける。
 雪の結晶がちらほらと目の前を舞った。
 クソが、もう追いついて来やがった。
 廃ビルの窓を破壊して氷柱が飛び出し、みるみるうちに夜空に氷のスロープが伸びる。氷の道は車の前の地面に、地響きを立てて突き刺さった。
 ビルの窓から人影が降り立ち、スロープを滑り降りてくる。
 轟の野郎、ムカつく奴だ。あっという間に距離を詰めやがった。爆速でここまで走ってきたというのに。
 轟はジャンプして、ボンネットの上に降り立った。
「おい、爆豪」
「そこどけよ轟。止めんのかよ」
「いや、止める気は無い。俺も行く」
「はあ?」
「1人では緑谷にかかった個性を、解除できないはずだろう、爆豪」
 勝己は歯噛みする。その通りだ。
「くそっ勝手にしろ。てめえに出来んのかよ」
「できる。緑谷のためだからな」そう言うと轟は助手席に乗り込んだ。
「クソが!ボンネットに足跡つけやがって!」
「すまなかったな。何処に行くつもりだ」
「俺んちだ、クソが!仮にもヒーローがこんな人形持って、ホテルに入れるかよ」
 後部座席を振り返り、寝かせた人形を見て轟は微笑む。
「本当に緑谷にそっくりだな。目を瞑ってる姿は、高校の頃からほとんど変わらないな」
 抑揚の希薄な口調に、優しげな色が朧気に滲むのがなんとなく不快だ。いや、ものすごくムカつく。
 クソデクが。全く間抜けな奴だ。後先考えねえで飛び出しやがって。いつだって世話を焼かせやがる。
「幼馴染なんだってな。昔からあんななのか緑谷は」
 高校一年生の体育祭の時に、轟は勝己にそう言った。出久と戦って、奴の抱えてきたものを壊された直後に。
 憑き物の取れたように穏やかな声だった。腹が立った。
 ああ、その通りだ。てめえの知らねえ昔から何度も何度も、あいつに俺はぶっ壊されてきた。こうありたいという理想は、あいつへの衝動で無茶苦茶になった。自分が濁って汚れていくような苦痛を、てめえは知らねえだろう。
 堪え難い執着と屈辱と、理想像とは違う俺を受け入れるのは、出久への衝動に名前を付けることと同義だった。
 一回ぶっ壊されただけのてめえとは、レベルも年季も違うんだ。
「もう一度聞くがな。何すっかわかってんだろうな」
「当然だ。聞くまでもないだろう」
「クソが」平然と言ってのけるのが忌々しい。
「恩を返したいからな」
 轟は車窓に目をやる。轟の視線の先。廃ビルの下には警察車両が集まっている。出久の本当の身体もあそこにある。
 恩返しなんざ、今じゃなくていいじゃねえか。別の機会にやれや、と勝己は心の中で毒づいた。

 出久はヴィランを単身でアジトまで追い詰めたが、返り討ちに遭い、敵の個性にかかった。
 轟と勝己が駆けつけた時には、既に出久の身体はぐったりとした、動かない抜け殻となっていた。
 ヴィランの個性は己の作った人型の人形に、相手の姿形の意識と感覚を同調させるというものだった。つまり意識はこの出久の身体にはない。
 追ってきた勝己と轟の姿を認め、ヴィランは得意げな顔から一変して顔色を変えた。逃走しようとしたヴィランを「てめえ!死ねやあ!クソカス!」と勝己は爆破で吹っ飛ばした。
 ヴィランは壁に叩きつけられ、壁にめり込んだ。衝撃で壁は放射状にひび割れて崩れ、ヴィランはコンクリートの欠片ごと落下した。
「おい、てめえ、デクはどこだ?いや、デクの入った人形か。どこだ。起きろクソが」
 勝己は昏倒したヴィランを揺さぶった。
「この倉庫の人形の中にあるんだろう」
 轟は落ち着いて答えた。勝己はヴィランから手を放し、轟は手錠と縄を出して犯人を拘束し始めた。
「クソが」
 やっと人形の保管倉庫を突き止めたというのに、ヴィランを捕獲出来ず、自分が人形になるとは、なんて間抜けなんだ。
 勝己は用心深く周囲を見回した。左右の棚には、のっぺらぼうの球体関節の人形の群が、整然と並べられている。顔には浅い目鼻立ちのくぼみはあるが眼球はない。男性型と女性型があり、身体のフォルムは滑らかで、どこか生々しい。
 人の意識がダウンロードされた人形は、顔がついているはずだ。1つ1つ見て行くと、出久の顔をした人形が棚に座っていた。
「てめえか、デク」
 顔を近づけて問うたが返事はない。薄眼を開けているが、手をかざしても反応せず、何も見えていないようだ。
 頬に触れるとほんのり温かく、皮膚を押すと弾力がある。髪の毛はナイロンの糸か何かだろうか。本物の毛髪じゃないが、出久の髪型になっている。
 体格も模しているのだろう。男女とも細身で中性的な他の人形より、筋肉がついた青年らしいフォルムになっている。
「あったのか」轟が問うた。
「ああ、馬鹿面をつけた人形があったわ」
 勝己は人形を担いだ。人間ほどではないがそこそこ重みがある。
「奴に聞いて、緑谷にかけた個性を解除させねえとな」
「聞くだあ?吐かせんだろ」
 轟はヴィランを椅子に縛り付けて、身体を凍らせた。「動けないようにした」と言っているが、聞き出しやすくするためだろう。奴も容赦ねえな。
 ヴィランは唸って、意識を取り戻した。
「おはようさん、いい朝だなあ」と勝己は指を鳴らした。生意気なヴィランだったが、手段を選ばないやり方で容赦なく脅して、解除条件を吐かせた。
 ヴィランは言った。セックスすれば元に戻る。ただし、二人以上の相手としなければならない。愛玩用のラブドールなのだから、セックスを楽しめるよう作ってある。ドールを通じて本体に感覚は伝わる。触覚も聴覚も味覚もだ、と。
 ヒーローデクも型なしだなあ、とヴィランは笑った。
 思わずかっとなってぶん殴ると、椅子ごと床に倒れ、ヴィランは気絶した。
「こんな危険な個性の犯人が野放しだったとはな。捕まえられてよかったな」
「へっ!馬鹿が個性をかけられてなきゃあ、これで一見落着だったのによ。クソナードが」
 昏倒したヴィランは解凍し、駆けつけた警察に引き渡した。出久の身体は救急車に乗せるために階下に運ばれた。
 出久の意識が人形に入ってることは、警察には伏せた。これをまだ渡すわけにはいかない。犯人が意識を回復して、口を割るまでの猶予だが。
「相澤先生は出張中だ。つまり個性解除は戻るまで無理ってことだ。警察に渡しても何もできねえだろう。でも解除方法はわかってんだ。個性にかかったと知られる前に、デクを元に戻せば済む話だ。奴の言うとおり、ヒーローがヴィランにしてやられたなんて間抜けな話、なかったことにしておけばいい」と言うと「なるほど、それもそうだな」と轟も黙っていることに同意したのだ。
 警察を見送ると、勝己は人形を抱き上げた。
「じゃあ、このデク人形はもらってくぜ。他に手がねえんだからよ。不本意だが俺がなんとかするわ」
「お前だけじゃダメだろう、緑谷を身体に戻すには、もう1人は必要なんだろうが」
「ああ?てめえもってんじゃねえだろうな?おい、ふざけんなよ!」
 轟の言わんとすることを察し、勝己は怒鳴った。
ヴィランの言葉を聞いたろ。セックスする相手は、ふたり以上必要なんだ」
 平然とした表情で、しれっと口にする轟にイラつき、ちっと舌打ちする。
「いいよ、仕方ないもんね」
 出久そっくりな声が、人形の喉元から聞こえた。人形が喋ったのか。だが口は動いていないし、表情は変わらない。
「人形の喉に内臓されたスピーカーが、被害者の思考を声に変換するらしいな」
 喉仏のあたりだな、と轟は人形の首を摩った。
「僕はいいよ。君も轟くんも。男同士の経験はないけど、僕だっていい大人だし、減るもんじゃなし」
「てめえは黙ってろ!」
 勝己は人形を肩に担ぎ上げると、窓から外にジャンプした。着地すると、背後で爆破させてスピードを上げて走った。
 結局すぐに追いつかれてしまったのだが。

 勝己は人形をベッドの上に無造作に放り投げた。手足の球体関節が擦れて音を立てる。
「おい、乱暴じゃないか」と轟が言う。
「は!人形だろうが」
「いた、感覚はあるんだよ、かっちゃん」
 出久はいっちょ前に文句を言う。顔は無表情な人形のままのくせに、
「ごちゃごちゃうっせえわ!動けねえくせに。重いんだよ。てめえが悪いわ」
「そ、そうなの?ごめん動けなくて」
「謝るところじゃないぞ。緑谷」
 舌打ちすると、勝己はベッドに上がり、人形を仰向けにして上に跨る。
「じゃあ、やるぜデク」
「性急じゃないか、爆豪」
「うるせえ、早かろうが遅かろうがやるんだろうが、ちゃっちゃと終わらせっぞ。股開けや」
「動けないんだよ、かっちゃん」
「ああ?クソが。仕方ねえな」
 出久の膝を立てて股を開かせた。膝も太腿の付け根も、球体関節は曲げた形で固定された。作り物の性器もちゃんと拵えてある。するっと男性器を撫でて、孔に触れる。
「うわあ」と出久が色気のない声を出した。
「んだよてめえ、このくれえでよ」
「何か不都合があったのか?緑谷」轟が問う。
「な、なんでもない。そんなとこ、触られたことないから。かっちゃん、平気なの?」
「ああ?てめえ人形だろうが」
「そうか、そうだね」
「恥ずかしいのか、緑谷。男同士だし気にすんな」
 轟の全然フォローにならないフォローに腹が立つ。その男同士でこれから何すると思ってんだ、クソが。3人でなんてふざけんなよ。
 本物の出久だったら、こんな状況、許せるわけねえ。人形だと言い聞かせなきゃあ、頭が爆発しちまう。出久が自分のもんになってたら、誰にも触らせやしねえのに。
 まだ出久と恋人にもなってねえ。いや、告白もしてねえ。卒業してから何年も経ってるのに、何も始まってもいねえ。クソが!もう待てねえわ。
 こんなきっかけになると思わなかったが、いつかは抱くつもりだったのだ。轟も一緒の3Pてのは癪に障るが。てか、頭が沸騰しそうなほどムカついてしょうがねえが。今から出久を抱けるのだという、高揚感は誤魔化せない。
「先にやるぜ」と告げると出久の太腿に触れる。
 皮膚に似せた手触りだが、少し違う。性器のあたりに手を滑らせ、後孔に触れて指を突っ込んでかきまわす。ほの温かいが人間の体温より少し低いようだ。
 指を2本に増やして、つけ根まで入れては抜くと「や、かっちゃん。やだ」と人形が声を発した。
「おい、爆豪」
「人形だろうが。そろそろ入れっぞ。中は柔らけえからそんなに慣らす必要ねえだろ」
「大丈夫なのか、緑谷」
「わ、わからないよ。初めてだし。僕の身体じゃないし」
「潤滑剤になるものを塗った方がいいだろう。身体は人形とはいえ、初めて受け入れる感覚が伝わるなら、きついだろうしな。そういうものあるか?」
「てめえはいちいちうぜえんだよ。クソが!あるわ」
 勝己は卓の中から、ローションのボトルを出した。いつか出久をものにする時のために、買って置いてあったものだ。
「用意がいいな。でもまだ未使用か」
「うるせえ!」
 孔に指を出し入れして、丁寧にローションを塗り込む。人形の出久は無表情のままに声だけが「ん、ん、」と悶える。
「俺が先にやるぜ。いいな」
「もう勃起してるのか。早いな」
 いちいち癇に障る奴だ。家についた時から元気になってたわ。準備万端だわ。
 ズボンの前を寛げて、出久の孔に先端を押し当てた。ひゅっと人形の喉が、息を呑んだような音をたてる。
「待て、これつけろ」
 轟はポケットをゴソゴソ探ると、コンドームを差し出した。
「ああ?んなもん要らねえだろ。人形なんだからよ」
「あるぞ。お前の後で挿入する俺の身にもなれ」
 こいつ、なんだかんだ言ってやる気満々じゃねえのか。ギリッと歯ぎしりし、コンドームを装着する。ついでに下着ごとズボンを脱ぐ。これで動きやすくなった。
 再び自身を押し当てると、出久の腰を手で固定し、強く突き上げ、一気に奥まで貫いた。
「ああ!」と出久が叫んだ。
「痛いのか、緑谷」轟が心配そうに訊いた。
「う、ん、感覚はダイレクトにくるんだよ。あの、かっちゃんいきなりは」
「ああ?てめえ、注文できる立場かよ」
「かっちゃん、もう少しゆっくり。お願いだから」
「うっせえな、てめえは。こうかよ」
 根元から先端まで入れて抜いて、ゆっくりと突く。生温かく狭い内側を押し広げてゆく感触。
 表情は変わらないが、「んあ、ん」と出久は押し殺した喘ぎ声を上げる。痛みだけではない色を帯びた声だ。
「はっ!デクてめえ、感じてるのかよ」
「そんな、こと、ない、あ、あ」
 人形の喉からの甘い発声。快感に嵌ったように、熱っぽく聞こえる。
「素養があんじゃねえのか」
 あんだろ。経験なくてこれなら、本物のてめえだってきっと気持ちいいはずだ。
「爆豪、思ったんだが」と轟は口を挟む。「奴はセックスと言ったよな。なら口でもいいんじゃないか」
「はあ?何言ってんだ」
「試してみる価値はあるだろう。緑谷の負担が1回で済むかもしれない」
「てめえ、デクにフェラチオさせようってのかよ!」
「人形だと言ったのはお前だろ。緑谷、どうだ?尻よりは楽じゃないかと思うぞ」
 轟が問いかけると「いいよ」と出久は答えた。
「てめえ、何言ってやがる!」勝己は怒鳴った。「デクてめえ、勝手に許可してんじゃねえ」
「だって、轟くんが僕のためにって考えてくれたんだし」
「クソナードが!どんなことすんのかわかってんのかよ」
 くそ!てめえが俺のもんなら、絶対にやらせやしねえのに。ざけんじゃねえ。
 だが、ものは考えようか。これで轟が出久を犯さないで済むってんなら、しょうがねえ。我慢だ畜生が。沸騰した頭を無理矢理に落ち着かせる。
 轟はズボンと下着を脱ぎ去ると、人形の頬を撫でて「口を開いてくれ」と言った。
「ごめん。轟くん、口も動けないんだ」
「そうか、辛かったら言ってくれ」
 轟は人形の顔を横に向けて指で口を開かせ、コンドームを装着すると、イチモツを咥えさせた。ぐっと押し入れて、小刻みに腰を振る。
 ムカムカと腹が立つ。勝己は少しずつ腰を振るスピードを上げた。がくがくと出久を揺さぶる。球体関節がきゅっきゅっと軋む。
 人形とはいえ、出久の顔と感覚を持ってるのだ。本物の出久は病院で昏睡状態だが、挿入の感覚は伝わっているのだろう。
 俺がてめえを抱いてんだぜ。今のてめえは球体関節のデク人形だけどよ。感覚はあんだろ。触覚が伝わってんだろ。俺のわかんだろ。
「デク。いくぜ」と告げると「ふ、は」と唸り勝己は射精した。
 屹立を引き抜き、コンドームを結んで捨て、荒くなった息を整える。クソが、交替か。それともこれで終わりか。
 うっと唸り、人形に口淫させていた轟が顔を上げる。奴もイったらしい。
 出久は戻ったのか?
「おいデク、こん中にいんのか?」
 声をかけると「いるよ」と返事が返ってきた。暫く待ってみたが、人形の様子は変わらない。
「戻らないようだな。失敗か。試してはみたけど、残念ながら口じゃダメそうだ。やはりセックスじゃないといけないようだな」
 悪びれもせず轟は答える。
「はあ?てめコラ!ざけんなよなあ!フェラチオしといて挿入もやんのかよ」
「そういうことになるな」
「クソが!」
 しれっと言ってのける轟に勝己は爆発する。やり得かよ、てめえ。轟は出久の足の方に回ってきた。退けと促してきやがる。
「交替だ。負担をかけたくなかったが、緑谷、大丈夫か?あいつの後すぐ入れちまっても」
「だ、大丈夫」人形が答える。
 ちっと舌打ちして場所を譲り、頭の方に回る。よく見たら、轟はもうコンドーム装着済みじゃねえか。フェラチオで射精したばっかだろ。いつの間におっ勃てて、コンドームつけてんだよ、こいつ。
 轟は人形の膝の関節を曲げて左右に広げ、身体を進める。ふあ、と人形の喉が声を上げる。轟が挿入したらしい。股ぐらを合わせ、足を抱えて揺さぶっている。人形は無表情なままで声を殺して喘ぐ。
 轟が優しげに言う。「苦しかったら言えよ。まだ半分くれえだ。止めねえなら、このまま全部入れちまうぜ」
「だ、大丈夫。ふ、は、あ」
 口では悶える出久を労る轟だが、容赦なく腰を振り、動きを止めない。ムカついた。出久の機嫌なんか取ってんじゃねえよ。気にすんなら加減しろや。クソが。喘いでんじゃねえわ、クソデク。
 そのムカつく口を俺が塞いでやるわ。
「口開けろや。クソデク。コンドームなんかつけねえぞ。俺は」と告げる。
 出久は掠れた声で「かっちゃん」と勝己の名を呼ぶ。開いた薄目から瞳が覗き、勝己を見上げる。
 眼球は少しだけ動かせるのか。見えているのか?奴は触覚と聴覚と味覚と言っていたが、視覚はどうなんだ。
 誘うような上目遣い。てめえも望んでいるみてえじゃねえか。そうだろ。
 出久の顔を横に向け、半開きの口を開けさせると、勝己は一気に突っ込んだ。「んん!」と人形の喉から呻き声が聞こえる。
 人形の口が勝己のものを呑み込んでゆく。本物なら出久の喉の奥まで届いたろうか。
 引き抜いて、再び付け根まで入れる。腰を振るたびにん、ん、と出久の声が響く。本当の肉体じゃねえんだ。多少手荒にしても構わねえだろ。
 ふ、と轟が笑う。
「んだよ、轟。何がおかしいんだ」
「いや、何でもない」
「うぜえわ、クソが。言えや」
「いや、ぶっ壊されたら、何が残るんだろうと考えてたんだ。憎しみと怨みだけが、今までの俺を形作っていたものだからな」
「はあ?」
「でもお前を見てると、壊されても新たに構築されるんだとわかるよ」
「ああ?俺はクソデクなんかに、何も壊されちゃいねえわ」
「そうか?」
 何を指して言ってやがんだ。わかった風なこと言いやがって。しかも、ピストン運動を止めねえで揺さぶりながらよ。
 勝己は怒りのままに腰を振った。出久の口で自分のものが扱かれる。生暖かい口腔。口内の内側を突くと人形の頬が膨れる。
 視覚的にエロくて滾るな。だが舌も歯もないし、下の孔と大差ない感触だ。本物の出久の口ならば、どんなにいいだろう。
 人形の口の中で勝己は達した。同時に轟が唸り声を上げた。ほぼ同時に達したらしい。荒く息をつきながら引き抜いて、出久の顔を覗きこむ。
 薄く目を開けた無表情な顔。虚ろな瞳。
「デク、どうなんだ」
 返事はない。眼球も動かない。無表情だが、出久の顔から心なしか、生気のようなものがなくなってきたように見える。
「ただの人形に戻ったのか?」
 轟も出久を見つめる。すると、みるみる内に顔面がつるりとしたフォルムに変化していった。
 固定されていた球体関節が緩くなり、足がパタリとシーツの上に倒れる。男性器が萎みはじめ、子供のものくらいの大きさに縮んで止まる。筋肉が削げて体格が中性的になり、髪は色が抜けて白髪になる。
 人形は倉庫に並んでいたものと同じ、のっぺらぼうに戻った。
 出久の本体はどうなった?意識は戻ったのか?無事なのか?もし戻ってなかったらあいつの意識はどうなる。
「クソが!病院に行くしかねえ」
「待て。その前に確認した方がいい」
 轟は携帯を取り出して病院に問い合わせ、通話を切ると勝己に向き直った。
「緑谷が目を覚ましたらしい。病院に行くぞ」
「さっき俺が言ったろうが!指図すんな、クソが」
 勝己はほっとした表情にならないよう顔を顰める。

「かっちゃん、轟くん」
 病院に駆けつけると、ベッドに横になっていた出久が身体を起こした。
ヴィランは?かっちゃんと轟くんが捕まえたの?」
「開口一番にそれか、緑谷」と轟は呆れたように言う。
「クソが!捕まえたわ。てめえもいただろうがよ」勝己は怒鳴る。
「それが、その、倉庫に入ったのは覚えてるんだけど」
 出久は困ったように言った。どうやら倉庫の中でのことを、デクは何一つ覚えてないらしい。もちろん人形に入っていたことは全く記憶にないらしく、話を聞いてびっくりしている。
 勝己は半分拍子抜けし、半分は安堵した。初めてがあんな形になってしまったのは、不本意だしな。出久が覚えてないのは幸いか。
 人形なんて数に入らねえ。退院したらすぐにモノにしねえとな。
「相澤先生はいないから、個性解除できないはずだよね。どうやって助けてくれたの?」
「俺も覚えてねえんだ。俺達も意識がなくてね」
 機転を利かせたつもりなのか、轟はデクに嘘をついた。奴も本当のことを教えるつもりはないようだ。いい判断だが、そりゃ無理のある言い訳じゃねえか。ヴィランを捕縛して奴が意識不明?なんだそりゃあ。
「ふうん?」と案の定出久は首を傾げている。
「うぜえ!事件は解決したんだ。てめえのドジも忘れてやるわ」
「う、うん。そうだね。」
 助け舟を出すつもりはねえが、この話題はここまでだ。あのヴィランの個性の解除方法を、出久が誰かに聞いたりしなきゃいけるか。
 ま、半分野郎も本当にちゃっちゃと忘れてくれよ。
 病室の戸を開けてやると「じゃあな」と轟に声をかける。
「さっさと帰れよ。俺はデクにまだ用があんだからよ」
「ああ、またな」と出久に言うと、轟は腰を上げる。
 すれ違いざまに轟は勝己に囁いた。
「お前と分け合うつもりはねえよ」
 どういう意味だこの野郎。マジで油断ならねえぜ。

END